應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死23〔第四章〕・生霊の帰還1

生霊の帰還1
  
 おせいさんの背中に乗って、私は無事この世に戻り京都に着いた。
何はさて置いても、これから自分の提供した臓器受供患者の状態を確認すると、おせいさんはいう。 
その理由は、一部肉体を置いてこの世に入った限り、いずれその機能が停止したら、その臓器を取り戻さなければならない冥界の掟がある。 従って常々その臓器の状態を、把握していなければならない。
 そのお陰で、年に2回は前世に帰ることが許されている、と云う。

まず自分の臓器を摘出した、中京区にある病院へ直行した。 
入口で「そのとき手術を受けた患者名簿で住所を確かめる」 と云って、おせいさんはナ-スセンタ-の方に入って行った。 
私はその後姿を見送った後、広く明るい待合室の椅子に腰を掛けた。こんなとき死霊は便利なものだ。 娑婆の人たちには姿が見えないから堂々と行動できる。 時計を見ると午前11時過ぎだ。
この病院は患者の治療や対応全てに亘り、高い評価を受けており、人気が高く今の時間でも人がやたら多い。 
私は所在なげに、前の大型テレビの画面をみる。 
半年ぶりのこの世のテレビだが、相も変らず軽薄なタレント集団が、くだらない昼番組をやっている。
「こいつら まるで白痴学校を優秀な成績で出たのか」と毒づきたくなる。
画面が変って天気予報。 これも生前から、よねぞうの気に喰わない画面だ。
予報に対して当る確率は3割程度で、明治時代とあまり変っていないと、生前に雑誌で読んだことがある。 半日前に立てた予報が当らない時が多い。 それにもっとも腹に据えかねるのが、誠心誠意ウソをついた予報士がその間違いを、その後謝ったのを聞いたことがないことだ。 いまの俺には関係ないが!

約1時間足らずでおせいさんが、書類を手に帰ってきた。
資料保管室から受供者の全てが分った と云い、患者は福島.東京.三重.大阪の4都府県に亘っているらしい。 ぜんぶ女性だ と云っておせいさんは、ほっとした顔をする。
うん それはそうだろう。 女である自分の臓器を、見ず知らずの男の人に植えつけられ、今も動いているのは、あまり気持のええもんではなかろう。 男の俺でも何となく分る気がする。
 2人は職場復帰、1人は自宅療養中、残る1人は入院中とのことだ。
今日を数えて2日間で、受供者の状態を診て廻らなければいけない日程だ。
「時間がないので、これから患者を診て廻るから、あたしから離れないで」
  
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

よねぞうの死22〔第三章〕・せいの謀りごと5

せいの謀りごと5


8月12日早朝から三途の川のほとりに、前世から来た者や、何処かに行く大勢の亡者たちが船待ちで、ごった返している。 よねぞうとおせいさんは、そこから少し離れた小高い山頂から、暫く蝟集する人達を眺めていた。 

当日の二人は、平安貴族を真似た服装で、目一杯おしゃれな姿で立っている。おせいさんは、鮮やかな緋の袴が一段と映えて、きれいに見える。

「ここから空を飛んで行くの あたしが念に集中し、切るまで黙っていて・・
私が空中に浮かんだら、あなたは私の身体に乗る そのとき必ず上を向いて、お互い背中合わせに乗って 私は下界 あなたは空を見て飛ぶの」 

 なぜ俺は下界を見たらあかんのか?と聞くと、
「あたしの最初のご先祖(役行者)が下を見ていて、女の人の姿に驚いて地上に転げ落ちたんだって・・あなたも相当スケベエそうだから危ないわ・・」

(む?・・あれは確か久米の仙人と違うのか? いやなことを云うヤツ  と思ったが、まアええわ) そのとおりなので黙っていた。


空に浮いた。
最初ゆっくりと上がったが、地面から1Kmで水平飛行に移り、よねぞうは云われた通り、おせいさんの背中に上向きに乗っている。 それはいいが、おせいさんが少し頭を上げて飛翔しているので、頭同士がかち合って乗り心地が悪い。 空はどんより曇って愛想がない。 暫く辛抱していたが少しずり下がった。 と、下半身がおせいさんの腰を抜けて空中に垂れ下がり、極めて不安定になる。 このまま空中に放り出される恐怖で、慌てておせいさんの両脇を逆手で掴み、しばらく辛抱していたがいいことを思いついた。 そうだ 体位を逆にすればいいのだ。 おせいさんに諾否を聞くと「勝手にして」と云われたので早速反転して、相手のふっくりした尻に頭を乗せた。

 これはエエ、まるで弾力のある羽毛ぶとんの上に寝ているようだ。 うす布を透して豊かにせり上がった尻の割れ目は、頭が安定し楽チンだ。

よねぞうはイタく気にいった。 昔から おんなの尻に敷かれる と云われるが、俺はいま、その逆だ。 

「男の本懐ここにあり」 気分が高揚するではないか。 

思わず陶淵明の「帰去来の辞」の冒頭が、頭に浮かんだ。
「帰りなんいざ 田園将に蕪(あ)れなんとす 胡(なんぞ)帰らざる・・」

こうして よねぞうとおせいさんは、彼岸から懐かしい俗世に戻って行った。


さて その先に何が待ち受けているのやら? 乞う ご期待  
  


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よねぞうの死21〔第三章〕・せいの謀りごと4

せいの謀りごと4

本当に黄泉返りができるのか?
 
いま世界に現存する宗教.哲学.化学等の世界で、臨死体験も踏まえ、黄泉の世界について幾多の説が流布されている。 しかし異次元の世界は誰も解きあかすことは出来ない。 論弁.論証の弁証法を用いても、この難解複雑な世界は未だ、と云うより、永劫に亘って解を得ることは不可能と思われるが・・・

しかし このよねぞうが、春秋の筆法をもってすれば難なく、解が得られるのだ。 それをあえて各界に問題提起し、高踏的な大論争を起こし挑むに、やぶさかではないが、時間と紙数、それにこの物語りを、マジメに読むような読者は、たぶん死ぬほどタイクツを引き起こすだろう。

 あえて蓋は開けない。


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よねぞうの死20〔第三章〕・せいの謀りごと3

せいの謀りごと3

いよいよ前世に戻ると決めた夜、せいは夫のよねぞうに、一度前の世に戻りたくはないか と聞いた。 二つ返事で「戻りたい」と云うだろうと思っていたが、あんに相違して、 「べつにィ あんまり帰りたいと思わん」

意外な答えが返ってきた。 よく聞いてみると、残った家族は女房以下、薄情ものが多く、そろそろ近づくお盆にも赤飯炊いて祝っている、と思う と子供のような、しょげた顔で肩を落とす。 きゅーんと母性愛を刺激する姿だ。

 また、そんなに簡単に前世に戻れるのか? と不思議そうに聞き、
「それよりここでおせいさんと二人、新婚気分でいつまでも浸っていたい」

せいは夫のそう云う口説はうれしいが、なんとしても初盆の施餓鬼(餓鬼世界に堕し飢餓に苦しめられている生類や無縁亡者に飲食を施す)にまぎれ、法会の日に合わせて行かねばならない。

そこで「私はどうしても一度帰らなくてはいけない事があるので、あなたは留守番し、一人で行って来てよいか?」と心にもない言葉を吐いた。 とたん、

「嫌だ おせいさんと一緒に行く」

一も二もなく賛成、単純だがすぐ乗ってくるところが可愛い。

そこで、「それなら これから説明するが、前世に行くために決められたことがあって、必ず守らなければならない」と前置きし、
「私の先祖は えんのおずぬ なの」
聞いたよねぞう、驚いた。 あの役行者の子孫? ほんまかァ ふーん京都にはいろいろの人が居るなあ と感心する。

「だれでもお盆には、自分を祭ってくれる家に帰れるわ。 まして新仏は盛大にお迎えして待ってるはずよ、あなたは遺族のことを僻むが、たぶん大丈夫。 それから8月15日の精霊流しの晩、こちらに帰らなければならないけど、空中遊泳しながら往復できるのよ」

よねぞうはいきいきとして、楽しそうに話すおせいさんを見て、反対するのは何だか悪い気がする。

「その間ふたりはずっと一緒だけど、お盆の15日だけは自由にしていいわ。 あたしも両親や兄弟の顔も見たいから、別れて行動しましょう・・」

「だけどあたしが決めた、落ち合い場所と時間には必ず来て頂戴。 帰りは必ず一緒に帰らないと、あなたは終生冥界をさまようことになるの 分った?」

と、おどしつける。 俯いたままよねぞうは 『それならまだ見たことのない、あんたのご両親に会って、こちらで一緒になった挨拶したい』と云う。

「ふたりはもう死んでるのよ どうして挨拶なんかできるの?・・」

「あっ そうか、うっかり忘れとった ほな蔭ながらあんたの家族の顔でも見ておきたい」

「あなたのお子やお孫さんたち、家族に会いたくないの?そんなに薄情者?」

「うーん いっぺん覗いたろかなぁ・・」
やっとその気になってきたようだ。 向こうに着くまで未だ時間がある。 それ迄に完全にその気にさせなければ・・自分の復讐計画の段取りが狂う。 

おせいさんは心に決めた。


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よねぞうの死19〔第三章〕・せいの謀りごと2

せいの謀りごと2

 このあと、せいは予定の行動として縊死(いし)し、生前事前に用意した臓器提供カードに基づいて、4箇所の臓器を前世に残して黄泉に下って来た。

そして途中、物色していた男の中で、よねぞうをターゲットにしたのだ。

なぜよねぞうか? 聞かれれば首をかしげ、少しの間考えて
「可もなし不可もなし ちょっと頼りないけど 気の強いあたし向きかな・・・」となる。

拙速で謀りごとが、よねぞうに気取られないよう、せいは慎重に事を運んだつもり。 来る船の中で少し復讐の本心をさらけさせた後悔がある。 しかし婚姻届けを出した後もこの半年、よねぞうに極力好感を持たせるため、自分の本性を押え、夜もできるだけサービスに努めた。 よりをかけた手管で、よねぞうはいま私を信頼しているようだ。
また 生れて一度も住んだことのない高層マンションを買い、そして20階という階を選んだのも、万一よねぞうに逃げられることを想定し、出入りの扉以外、出口のない箱に閉じ込めたかったからである。
すこし早いなと考えたが結婚を要求した。 抵抗するかと思ったが、単純なよねぞうは案外あっさりとOKした。

結婚後も、けどられないよう言動には細心の注意を払い、弱いくせにセックスが何より好きなよねぞう。 それに前世でご先祖との約束ごとでもあり、今まで以上に濃密に応じるようにしていた。 
反面、折角手に入れた男を腎虚(じんきょ・・房事過多による著しい衰弱症)になられては困る。 最近やや痩せて生気に欠けてきたように思ったので、精力剤やサプリメントの類い(例えば・・黒酢.うこん.きのこ類.まむし粉.体力増強にビタミンやミネラル.ベーターカロチン.クルクミンなぞの多く含んだ錠剤など)を、胃をこわすほど飲食させている。
中でも自分も心の中で笑いながら、イモリの黒焼きの粉を、野菜に炊き込んで食べさせている。(イモリの黒焼きホレ薬 恋しい人に振り掛けろ 想いが通じ恋が成る・・俗謡)

もう逃げ出さないだろうと、今日初めてよねぞう独りの外出を許した。 よろよろ出て行くうしろ姿を見て、この頃自分のほうが積極的になっている、夜の営みを少し控えようと思った。


さていよいよ時空技術を操り、前世に行く腹を固める頃合だ。 頭の中は様々な想いが去来する。 その前に よねぞうをどうしようか と迷っている。 置いていこうか?連れていこうか?それが大きな問題だ。(まるでハムレット!)

置いて行くのが一番いいのだが、今まで一緒になって離れたことがない二人。 それが何処へとも云わず、突然何日も留守をし、姿を消せば疑うに違いない。

また連れて行くとして、目的の全てをさらけ出せば、私の執念深さが気の小さいよねぞうを、恐怖の底に落としこむかも知れない。 どうしたものか?

よねぞうには今まで私の良い面ばかり見せて来た。 半年が経って、いつの間にかこの頃の私は、よねぞうに愛情を感じ出している。 
だから自分でも、時には自己嫌悪に陥るほど憎愛の激しい執念深い嫌な性格、この月の裏側を、よねぞうには絶対に見せてはいけない。

 ここまで、とつおいつ考えてやっと出した結論は「連れて行こう」となった。 私はあの人が好きだ。 離れられないのは 執念ぶかいこの私のほうだ。


しかし一緒に行くとしても、私が前夫に復讐している間、始終くっついて離れてくれないのは大変困る。 あれやこれやこれから詰めて考えなければ・・今年唯一ゆっくり帰れる前世のお盆がすぐやってくる。 せいは気が焦る。
  



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よねぞうの死18〔第三章〕・せいの謀りごと1

せいの謀りごと1

いま、夫のよねぞうを一緒になって初めて独りで外出させ、自分の部屋で頬杖をついて考えている。

前世の月山勢 結婚前の旧姓.役所勢(離婚に同意しないで死んだが、親が同意して届けたからたぶん旧姓に戻ったか?) いまはそんな事はどうでもいい。この阿修羅に来て今の男と結婚し、ほぼ半年が経つ。
 そろそろ前世で計画したことを、実行に移す刻が来たようだ。

旧姓.役所勢の遠祖は、なんとあの超有名な 役小角(えんのおずぬ.別名 役行者)である。

<解説・・奈良時代の山岳仏教徒.修験道の祖.大和の国.葛城郡の生れ・仏教と呪術を善くし、吉野金峰山.大峰などを開いて苦行、文武天皇の時.大宝元年 巉(そ)によって一時伊豆に流された> 
せいは長女でその下に2人の弟がいた。 
姉弟は物心つく頃から『我が家は役小角の子孫で、その証拠に姓の頭に役がついている』ことを両親から何度も聞かされて育った。
せいが夫と不仲で実家に戻り、恨みでうめくような、やり切れない日々身を灼いていた。 悔しくてこの恨みを晴すためには、死んで化けて出られるなら、いっそ自殺して祈り殺したい、と怨念に凝り固まっていた。
両親は、せいが小さな頃から、頭はよいが何ごとにも粘り強く、執着心の強い性格を知っていたから、婚家から帰って来て、毎日仏間に籠っているのを心配しながらも、静かに見守っているだけであった。
せいは先祖の位牌に来る日も来る日も祈り続けた。 あの男に私の憤怨と汚辱と呪いを与えたまえ と。


そしてある晩、とうとうせいの枕辺に、あの役小角が現れたのである。 
「私はおまえの先祖である・・」と前置きして。 女の執念岩をも通すか。

「私は修験道山岳仏教の開祖で、特に時空を超えて遊泳する呪術に長けておる。
昔からのおまえの性格、おまえがこの家に帰って後、身を捨ててもとの祈念、今の執念から推して、向後、いか様に行い修行しても、成仏(煩悩を解脱して仏果を得る)はとても無理だ。 それでも前夫に怨みをはらしたければ、一つだけ方法がある。 始祖の私から云うのは真に忍び難いが、それは、おまえがこれ以上生きて、引かれ者の執着で羞恥を世間にさらすよりまだましだ。
せい 自栽(自殺)せよ。 死して怨念を開扉すれば、10倍の果が相手に起る」

「一つ、まず自栽(自殺)せよ そして臓器提供をするのだ。
昔から日本人は仏教の影響からか、五体満足で黄泉へ下る思想があり、脳死後も身体の一部、それも大切な五臓を切り取られると、あの世で満足に旅が出来ないような心層が働き、臓器提供者が極端に少ない。 それに比べて欧米では、霊魂は死と共に肉体から離れ、不滅という思想が支配しておる。 その結果臓器の提供が多く、止むなく日本の障害者が高額の金をつくって、海外に臓器移植を求めて渡航している現状だ。 
ところが本当は、死後どの部位をとられようが、今迄と全く同じ営みが出来るのじゃ。 その証しに、戦さで首を斬られた者は、首無し人間になっているわけでない、ちゃんと首を付けたままじゃ。 黄泉(よみ)へ行っても不都合はない」

「二つ、 提供しておけば、された者の臓器の状態を診るため、半年に一回程度、時空を超えて往き帰する権利が付与される」
「幾つか条件がある。 死んだものは本籍が黄泉の国だ。 戻ったとき、前世の未練を断ち切れず、そのまま居着かれては困る。 そこで冥土で結婚して家庭を持つのが必須条件だ。 但し、決して形式的な見せかけ夫婦であってはならん、琴しつ相和し、夫婦の営みも最低週4回以上でなければならん。 忘れるな、仏はどんな些細な事柄も見透しじゃ。
これが守れるなら、始祖のこの小角が責任をもって、わしの得意わざの時空遊泳で往復させてやろう。 幸いおまえの弟たちが子孫を残してくれておる。 おまえが死んでもわしの子孫が絶えることは無い。 心おきなく自栽して目的を遂げよ!」
 
聞いたせいは喜んだのなんの、参拝九拝してご先祖さまに礼を云った。 

消えて行こうとする霊に向って、せいは先程から持っていた疑問を聞いた。

「なに? 女人禁制の修験者であるこのわしに、なぜ子孫が出来たかって? 
後世誤り伝えられ、誤解があるようじゃからこの際恥じを忍んで申しておく」。


「おまえ 久米寺の開祖である久米の仙人の言い伝えは知っておろう。 吉野龍門山に籠り仙人となった男。 ある日 空中遊泳中、おなごが吉野川でしゃがんで赤いふたの(腰巻き)をたくし上げ洗い物をしていた。 その白いマタに見愡れ、神通力を無くし空から墜落した・・世に有名な噺。 これは今昔物語や徒然草にも載っておる。 実を云うと本当はあれはワシだったんじゃ。 弟子の久米が身替わりとなって山岳仏教開祖の私を庇ってくれたのじゃ。 どのような苦行修験者でも、女の色香に迷うという故事、 そのおなごとの子孫がおまえじゃ・・大切な女の秘所を見られた 一緒になってくれぬと死ぬといって、しつこくオドされてのオ そのおなごの血を引いている執念深いおまえの事じゃ、わしのような失敗はするな そして次の男にはぬかるなよ!」


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よねぞうの死17〔第三章〕・快楽(けらく)の日々

快楽(けらく)の日々2


二ヵ月が過ぎた。

夕食後、そろそろ寝ようか と言ったとき、おせいさんがグラスに寝酒のワインを注いだ。 きらいな方ではないから、数杯を過ごす。 いい気持ちだ。

暫くしておせいさんが俯いたまま、ため息混じりに「聞いて欲しいことがある」と言う。

「水くさい おせいさんの事ならなんでも聞いてやるよ」と答える。

なんども「笑わないで」と念を押したあと、
「結婚してほしい」 と言った。
「あなたとは三途を渡ってから、ずっと一緒だった。 もう私の気心も判ってくれていると思う。 あたしも、あなたが私にぴったりの人だと、最初の第一印象から思って・・・そのまま変っていないわ。 前世には私にいろいろあったけど、この世にやって来て、心の底から愛しい人に巡り合えた。 この人と二人で最高の家庭を築きたい。 そしてどうか私を哀れと思うなら、前世の不幸を取り返えさせて。 女の私から言い出すのも気が引けるが、このままだとひょっとして、あなたを他の人に取られちゃたまらない、お願い結婚して」

要旨、こう言うことを柔らかい京弁で、綿々とよねぞうに訴えた。
 
たいへん驚いたが、口説かれてイタク感激、前の世でもこんなクゼツを女性から聞かされたことは一度もない。 おせいさん ありがとうよ。

 翌る日、よねぞうは、けだるい朝を迎えた。 ゆうべは少し過ごした。
先程おせいさんは、役所へ結婚届を出しに行く、と云って出て行った。 
いまよねぞうは考え中。 にぶーい男でも「俺もとうとう骨を抜かれたか?」と思わずにはいられない。 それにおせいさんは俺のことを、
「心の底からほれた人。他の人に取られるのを怖れるから早く結婚を・・」とせがんで嬉しがらせた。

しかし彼女が居ない時に何となく、もう一つすっきりしないもどかしさを感じる。 いまもそうだ。 
何もかも段取りがよく、早すぎるのではないか。 まだ知り合って二ヵ月だ。
まるであの世で全て計画を立て、そのシナリオを消化して動いているような硬質な感じが起る。 こちらが一文なしとはいえ、どだい家を買うときぐらい、せめて俺の感想を聞いてくれてもいいじゃないか、水くさい。 また不可解なことに、自分の部屋に入るのを許さず、カギを掛けて覗くことも許さない。 

けだるい頭で恨みごとを反芻(はんすう)していたが、すぐに (そうはいっても髪結いの亭主じゃなぁ)と自虐的になる。  


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よねぞうの死16〔第三章〕・快楽(けらく)の日々1

快楽(けらく)の日々1

 三途(さんず)の川を渡り終えて半月が過ぎた。

おせいさんは翌日から、不動産屋へ足を運び家探しを始めた。 それもマンションだ。 この世も生活機能は生前とほとんど変らない仕組みらしい。

このまえ確かおせいさん、生前の京都では庭付きの家で過ごし、一度もマンション住いの経験が無い と云っていたが・・・だからその時怪訝な気がし、なぜマンションか?と聞きたかったが、なにさま一文なしで、全ておせいさんに頼らない訳にはいかない境遇の身、黙ってついて行くしか能がない。 

そして築10年の中古で、30階建ての高層マンションの、20階の3DK一室を即金で買った。 こちらの通貨は、なんと江戸時代の文・分・両・の金本位制の世界だ。 おせいさんは持って来た紙幣を交換し、それに後で判ったが、相当の金の延べ棒を体に巻いて持ち込んだようだ。 今も幾ら持っているのか分らないし、またよねぞうには関心がない。

3部屋のうち、洋間に大きなダブルベッドを入れ、2つの和室のうち一室を自分専用にし、あとは納戸。 よねぞうの専用部屋はなく、ダイニングなどでうろうろしていて、と命令された。

高層住宅で、広く大きな窓からは眺望はよいが、前世と違い景色はほとんど灰色がかって色彩に乏しい。 部屋は全自動エヤコン完備で、窓は勝手に開けられない。 外に出るのも出入口の扉だけだ。
家財を運び込んで落着いたのが、こちらに来て一ヵ月後。 京育ちセンス、女らしい落ちついた部屋のインテリアに仕上げた。 


いま よねぞうはぼんやり外を眺めている。 頭の中は死んでからの夢にような一ヵ月を反芻している。 おせいさんは所用が有るとかで外出中。 出て行くまえ「独りで出ていかないで」と優しく言いおいて出て行った。


三途の川を渡る3日目最後の日、賽の河原で見た光景が、よねぞうの胸をいまも締め付けている。 船内放送が「賽の河原に近づいた」と告げて暫くし、全体が靄のかかり、茫漠とした輪郭に乏しい中州が見える。 しかし一ケ所だけ、よねぞうにははっきりみえた。

2~8才ぐらいの子が6~7人、素裸のまま河原で、赤い色の棒高飛びの、棒ほどの重そうな塔? を2人が支え、その根元に大きな子がせっせと石を運び、小さな子がそれを固定するよう、みんな懸命にその作業にはげんでいた。

どうやら自分と因果関係のある者だけが、ハッキリ見えるようだ。 一緒にのぞいているおせいさんには、靄のかかった影法師にしか見えない と云った。

あれがエンマ様に指摘され 「よく見ておけ」 と叱咤された光景なのか!
 
 経文に「十より内の幼子が賽の河原に塔を積み、一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため、日の暮れあいの淋しさに、地獄の鬼が現れて、積んだる塔を突き崩し、また積め積めと急きたてる・・」
悔悟の念がいまも薄まることが無い。 こみあげる感情を押し隠せない。

こんなよねぞう 思考は暫くして、おせいさんに移る。

二人は川を渡る船の中で一緒になって以来、ずっと共にして来た。 あの女(ひと)は柔らかい京弁で優しく、いつもかゆい所に手の届くこころ配り。 

前世の夫は、こんな情愛が細やかなすばらしい妻を放って、若いとはいえ、他の女性と子まで成したとは・・それに自殺にまで追いやった。

 俺には分らない。 

よねぞうがイタく気に入っているのは、その気質もさることながら、のびやかな肢体である。 形のよい大きく豊かな乳房、白磁のようなきめの細かい肌、それでいてよく引き締まり、弾むような弾力をもっている。 そり返り流れるような腰によく実った臀、おれは果報者だ。

いっとき船の中で、おせいさんは、自分のことを「執念深い性分だ 前夫をこのままにしておかない 必ず化けて出てやる 阿修羅道は自分に合っている」と打ち明けられたときの驚きと、凄惨なおせいさんの顔は忘れないが、その後のつき合いで随分薄められ、今ではあの時、どうして女夜叉に見えたのだろうと思うくらい、纏綿(てんめん)とした情感を示してくれる人だ。 

とは言えおせいさんには、もう一つ合点のいかない不透明なもどかしさがある。 が、「まあええわ」 昔から深読みの出来ないよねぞうは満足している。 


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よねぞうの死15〔第二章〕・四十九日(幽冥界.黄泉)8

四十九日(幽冥界.黄泉)8

三日経った。 

船は今しがた三途大滝を遊覧し、これから中ノ島に向っている と船内放送があった。 船は穏やかにカーブを切って進んでいる。

よねぞうはベッドに寝っ転がって、漫然と窓の外を眺めている。 おせいさんは今鏡の前で化粧中だ。 こんな時間が無限に続けばエエのにと、よねぞうは考えている。 その反面、おれの人生で こんな温和な日を過ごしたこと少なかった。 そのうち、とんでもない反転が来るのではないか、といつもの心配性が頭をもたげた。

いつの間に来たのか、おせいさんが私のベッドに腰を掛けて、こちらの顔を見つめている。 念入りな化粧のあと、息をのむ程きれいに見える。 
思わず起き上がろうとすると、そのままと手で制し、切羽詰まったような表情で、ぜひ話を聞いてほしいと云う。 寝たままという訳にもいかないので、ベッドに坐った。

いつか判るから と前置きし話し始めた。 話というのはこうだ。


「わたしは京都の、むかしの公卿の筋を引く家に生まれて、同じような血筋の出生の人と、15年前に結婚した。 5つ上の夫は学者で穏やかな人柄。どちらも取り立てて不満のない生活が続いたが、子供のないのが唯一空虚であった。

ところが昨年の葵祭に、夫が30才ほどの女性と、夫に似た5才ぐらいの男の子を連れて見物しているのを、偶然見つけた。 

遅く帰って来た夫を問いつめると、相手はなんと7年前から関係を持っていた それも大学で自分の教え子だった女性。 もっと驚いたのは、夫の両親は子までいるのを知っているという。 堰を切ったように夫は白状し、挙げ句、『おまえに子供ができないからだ』と、非が私にあるように開き直った。

それからはわたしの地獄の毎日が続いた。

嫉妬.懊悩.口惜しさで心の中は夜叉.羅殺になっていった。 鬱にかかり実家に戻っていたが、今年になって仲人から、夫が離婚の意向と伝えてきた。 その前後、いろんな事がしがらみ、私は意地でも離婚しない、と言い張ったけど、世間体を気にする両親の手前もあり、表面は大人しくしていた。 

「いよいよ最後の調停の日の朝 首を括って自殺したの」
「このまえ選別所のエンマさまが『おまえは嫉妬の念深く、執着心が人一倍強い、激しいねたみ 怒り 猜忌の強いものが行く阿修羅道、まさにおまえにピッタリじゃ』って言われたけどその通りなの・・・」
「あたしは確かに何ごとにも執念深い性分で、小さいときから半パじゃないわ、だから、これからあの人をそのままにして置かない。 その為、わざと当てつけに死んでやったの。

必ず化けて出てやるわ・・なにしろ阿修羅道は、あたしにピッタリの世界なの」
文字色


聞いて震い上がった。 あのきれいだった顔 眼が釣り上がっている。
「だからこれから あなた協力してね ぜったいよ あたしは執念と嫉妬はすごいんだから・・」

(げッ ちょっ ちょっと待ってくれ ・・・) 一息入れ、

「どだい自殺なんかせずそのまま頑張ったらよかったのに。 死んで化けて出てやる 言うても、どないして元の世に迷い出られるんや?」

「それが うまくやる方法があるの。 まァ秘中の秘だから、いくらあなたでも今、打ち明けるわけにはいかないわ」

よねぞうに近づけた顔、陰を含んだ笑いがすごい。

(こりゃエライことになった 女のリンキは始末が悪い、幾つ何才になっても。
おれの母親70才越えてもモノスゴかったもんな。 この女は正気を逸しているわい。 えらい女と えらい仲になったものだ。 
これから何年、こんな執念深い女に振り回されて生きて行くのか。 覆水盆に返らずか! つい先程、こんな時間が無限に続けば・・とニヤついていたのが、アッという間に反転したではないか。 
だいたい女房ドノが、ケチッて棺桶にゼニをしっかり入れてくれんかったからや、 助けてくれエー・・)。

またニッと笑ったおせいさんの顔が夜叉になった。

無限地獄は続く・・・。
                            

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よねぞうの死14〔第二章〕・四十九日(幽冥界.黄泉)7

四十九日(幽冥界.黄泉)7



再び広場の入口の近くまで来たとき、うしろから女性の呼び掛けに振り返ると、先程選別所の前で、私の後ろに並んでいた中年の美人だ。

「いま判決を頂きました」と云って近づいて来た。 改めて正面から見ると、色が抜けるほど白く眼が涼しい。 背は大柄の方だ。 あなたはどちらへ・・と聞くので修羅です と答えると、

「まあうれしい あたしもですわ いいお連れができて・・」

いやになれなれしい。 が、イヤな気がしないけど、こちらは文なしだ。 そんなことなど知らぬが仏の女性は、あなたのような人が、なぜ人間界に行かなかったのか、と柔らかい京都弁で聞く。

「いやア 小さいころ地蔵さんに小便かけたのがタタッて・・」
 と云うと白い歯を見せて大笑いし、やはりあなたらしい と云う。

 私を知っているんですか?と問うと、
「いいえ さきほどの立ち話で、大体あなたの性格判ります」

八卦見のようなことを云う。 では御一緒にまいりましょう と形のよい尻を振って先に歩き出した。

数メートル行って私の動かない気配を察し、どうしたの・・とけげんな表情で戻ってくる。

「いやァ それが あんまり突然死やったので渡し賃持ってへんのですわあ」
バツの悪い顔で正直に云うと、再び明るく笑って、
「なんだ そんなことなら気づかいいりまへんえ、あたし ぎょうさん持ってるから 心配せんとォきやす」

腕をつかんで身を寄せ、同道を促す。 よねぞうは昔から色が白くて大柄な美人に弱いのだ。

三途の川を渡る大船の特等室に入った。 それも個室という贅沢さだ。 窓が大きく取ってあり、平床の川舟なのでほとんど揺れない。  
二人は紫檀のテーブルを中に応接椅子で向い合った。 


この美人は京都生れ育ち、月山勢(せい)と名乗り、享年38才。 おせい と呼んでくれと云う。


落着いたところで、見も知らない私に なぜこんなに親切にしてくれるのかと聞くと、独り旅が淋しくて と少し泪ぐんだ。 なにか訳があるのか?

まあ長い旅、こちらも願ったりかなったり、とびきりの美人と旅ができるなんて おれはついてるわい とつい先ほど、選別所で説教されたのを忘れて、心では不真面目な事を考えている。




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