應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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休暇に入ります

皆様、いつもご愛読ありがとうございます。

私、應其はしばらくの間、夏季休暇に入りますので、

よねぞうの死はしばらくお休みです。

続きは、少し涼しくなった頃から連載スタートします。

メッセージ、コメントは引き続きお返事しますので、

どんどん、お寄せください。

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よねぞうの死29〔第四章〕・おせいさんの実家2

おせいさんの実家2


これに比べ、仏 ほっとけ 大人たちはそろそろ、でき上がってきたようだ。
いつも一番賑やかなのは、長女の晶子だ。 私の位牌を指差して、
「7月に高野山へ骨のぼりに行って、創ってもろたけどコレええでしょ」
善二郎が私の位牌を見ながら、
「ところで このケッタイな戒名、これでエエかな?」
おお そうだ忘れていた、戒名の謂れは何だ。 こちらも急に興味が湧く。
「ええやないの、みんなでチエ絞って苦労して創ったのに、今さら・・」
女房ドノが 「お坊さんに頼むと、長い文字ほどありがたいらしいけど、一文字幾らで相当お金かかるから、しょうないわ」と云う。 金の問題か?
「青森の鷹ちゃんとも、パソコンのビデオチャットでやり取りしたし、皆の総意やないの。 あんたも初めエエ言うたやン、それでも鷹ちゃん終いごろ、ぐずり出し、説得するのに苦労したんよ」
「なんでや?」
「お墓の石碑、この戒名で刻むの、かっこう悪い言うて・・」
「なんでや?」
「だって ショウモナイ イヤミ ヘンコ コジ やろ。 鷹ちゃんが『読む人笑う』云うて・・そやけど 『生きてたころのお父さんに一番似つかわしいし、ユ-モア-があって、他人でも、生前の人柄を想像してくれるわ』 って云うたら 鷹ちゃんも最後に承知したけどな」
「なるほど そう云うとそうやなァ」 善二郎 にやにや。
「それにもう遅いわ、今日お坊さんが位牌に、魂入れに来てくれるし」
元女房ドノが追い打ちをかける。 こんな碑を建てる遺族のアホさ加減に、他人様があきれて嘲笑されるの分らんか、まァ恥をかくのはこいつらだ。
そこへ源三郎が帰ってきた。 日曜出勤というが、どこまで本当か?また一段と賑やかになる。 しかしこの位牌 腹が立つけど、よう出来とるな。

宴たけなわである。 午後1時ごろスク-タ-に乗り、やっと坊さんが来た。 葬式のとき、あっという間に俺に引導を渡して帰った、あのボンさんだ。 
「ああ盛り上がってますなア・・」と うれしそうな愛想笑いで入って来た。
迎える連中、大慌てで座をしつらえる。 すると今度も数珠をまさぐるや、 あっという間に読経が終った。 えッ もう魂が入った? 
にょうぼドノ、すかさずお布施を渡し、さあどうぞどうぞと酒肴を勧める。
いや拙僧はまだ、これから他を回らなければ、と一応は遠慮めいた口をきくが、腰は座ったまま。 まあ少しでも と、強く勧められると それじゃあお言葉に甘えてビ-ルから頂きます と遠慮がない。
坊さん、私の位牌を見ながら「エエ法名ですなあ、誰がお付けになった?」と、皮肉まじりのおべんちゃらを云う。 にょうぼドノが
「本当はお坊さんにお願いしたかったんですけど、ビンボ-ですさかい、家の者がみんな寄って付けたんですけど・・」 晶子が すかさず、
「祥は瑞祥でめでたい、それを頭にして最も名を挙げ、偉かった。 闇の世界へ行っても香り高い居士法名、とまア こんな積りで・・エッヘッヘ-」
 よくもまあ口から出まかせの筋を創るものだ。 頭と口の回転が、相も変わらず滑らかなものだ。
「なるほど ここの皆さん 学がおありですなあ」
坊主は分っていてお追従を云っている。 アホらしい。
まあ 皆の達者な姿を見たので安心 と共に、こんな連中にいつまで関わっていても、胸クソ悪いだけだ。 また来ることもあるだろう。 嫉妬ぶかそうだが、急におせいさんの顔が懐かしくなった。 彼岸に帰ろう。
 
おせいさんに、私と分れてお盆をどう過ごしたのか と聞いたが、「あなたと関係がない」 と一言も喋らない。 前世の夫に復讐すると、前に聞いたことがあったが、どんな方法で本当に実行したのか、興味があって数回聞いたが、
「ほんとに何も話すこと無いわ」
取りつく島もない。 そして「いまはあなただけよ」 と嬉しがらせて、はぐらかされた。 そこは淡白なよねぞう、それ以上聞かなかったが・・・
おせいさんの背中に乗り、短い日々であったがこの世に戻り、様々な光景を見、遺族にも会った。 
そして往きに思い浮かんだ陶淵明の、詩の後節が再び口をついた。
「・・実に塗(みち)に迷うて其れ未だ遠からず 今は是にして 昨(きのう)は非なりしを覚る」
皮肉なものだ。 再びおせいさんに乗って、阿修羅の世界に戻って行く。 


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よねぞうの死28〔第四章〕・おせいさんの実家

おせいさんの実家

今日も暑い。 よねぞうは今、京都から電車を乗り継いで、千里の自宅を目指している。
ゆうべ嫌な夢を長く見た。 そのうえ今朝のおせいさんは、あの世で「娑婆に戻りたくない」と、ぐずる俺を無理やり連れてきて、今度は「今日 元の家族に会いに行く」というと嫌がった。 変なヤツ・・
 さて、昨日立ち寄ったが不在だった実家。 いくらなんでも中元の今日はお盆休み、居るだろう。 よねぞうは揺れる車中で回想する。
死の直前、ある新聞の読者欄に「亡き夫といまも夢で会っている」という表題の投書。 それは50才の主婦が、15年まえに40才で病死した亡き夫を偲び「短かかった結婚生活の愛の充実した日々、今もときどき夢で会っている」の記事を目にして、イタク感激した。 比翼連理の物語りではないか。
生前、その記事を女房ドノに読み聞かせ 「昔から親子は一世、夫婦は三世というて、来来世まで、深い契りを結ぶのが夫婦らしい」 と云うと、
「あほらし、あたしは女に生れて損したと、いつも思ってる。 こんど生れ直して来るときは、ぜったい男。 まして、あんたなんかと二度と会いたない」 
味もソッケもなく、鼻でセセらわらっていたが・・果たして今はどんな心境で、
どんな生活を送っているのか、あまり期待せずに見てやろう。

門を入るなり家の中で、はじけるような声が聞こえてきた。 大勢居る。 みんな元気でいるらしい、まずは安心。 玄関を入るとはっきりした。
仏壇のある表の間に全員集まっている。 にょうぼドノ.長女夫婦.善二郎一家5人.の8人、源三郎だけがいない。 どうやら今食事が始まったようだ。
私が昨年秋、垂水の沖で漁ってきた小アジの空揚げ.柿の葉ずし.マグロ.ハム.ロ-ストビ-フ.〆サバ.野菜の盛り合わせ.煮豆.およそ精進料理にほど遠い内容。 それにワイン.ビ-ル.冷酒.焼酎.ジュ-スとテ-ブル一杯に広げ、嬌声.奇声.ド声.子供たちの声が入り交じり、何とも陽気だ。
仏壇に入り、真新しいが、けったいな戒名位牌 「祥最名院偉闇変香居士」の中から、暫く様子を見ることにする。

善二郎の子たちは、代るがわる仏壇の前に来ては鉦をならし、小さい手を合せ、末っ子の吉クンは「うう あん」と、きばる。 姉の秋ちゃんは「絵が上手になれますように」 長女の夏ちゃんは「体操の逆上がりができますように」
よく聞いていると要求ばかりだ。 なんでもエエ かなえてやるぞ。

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よねぞうの死27〔第四章〕・移植患者めぐり4

移植患者めぐり4

おせいさんとセンタ-1階の、広い待合室で落ち合った。
話を聞くと、手術は順調であったが、一時抗体反応が強く出て心配された。それも数カ月前に治り、先月からリハビリに入っているまでに回復したと云う。
この女性も、一見しておせいさんが気に入ったようだ。 しきりに、
「こんな子は元気になって長生きして、世の中のために働いて欲しいし、してくれるはずだ」とほめた。 これでおせいさんが提供した、臓器移植患者は全て診て回ったことになる。
「ところで お家のほうは?」 
少し釣り上がったような目をする。 留守だった と云うと、疑わしい眼をしたが 「これから私の家へ行きましょう」 と云って病院を後にした。
 
  おせいさんの実家
上賀茂に300坪以上もある、落着いた枯山水造りの庭を持つおせいさんの実家。 おせいさんが使っていた、渡り廊下でつながった離れの部屋は、生前そのままに置かれている。 二人はそこへ旅装を解いた。 
私は夕食時、おせいさんのご両親を蔭ながら拝見する。 
お父さんは60才を少し超したか、落着いた穏やかな風貌。 おせいさんによく似たお母さんは、頭に少し白いものが混じり、背筋を伸し、立居振るまいに気品がある。 さすが、と感心する。 二人はいま物静かに夕食を終え、茶を喫している。
その両親を、じっと眺めているおせいさんの白い頬に、筋をつけて涙が伝い落ちる。 その横顔を眺めながら、親よりも早く逝ったおせいさんの心情と、ご両親の静かな姿の底を汲み、よねぞうも痛切な気持になっている。

おせいさんは、さすが今日疲れたのか横になるや、すぐ寝入ったようだ。
俺も眠るか と目を閉じたが、戻ってきた前世の慌ただしかった数日の事柄に興奮してか、なかなか寝つかれない。 それでも半時間のちには、寝息に変っていた。
せいは寝入ったふりをしていたが、夫が眠るのを待って床を抜け出した。
仏間に入るや頭を下げ、小さな声で経を上げ始める。 約一時間ほど経ったころ、ぼう-とした人型の光る輪郭を持った、役の小角爺さんが現れた。

「おせい しばらくじゃ・・」
せいはその像に向って、三拝九拝して礼を云った。 爺さんは満足げに、
「あの世はこのわたしが云うたとおりであったであろう。 うん ところであの世で結婚したあの男は、お前が選んだにしてはまァまァじゃな。 限られた時間の範囲では仕方なかろう。 
云うて聞かすが、しかしあの男は意志薄弱で移り気、気が小さくて度胸がない。 おまえのような執着したねばりが無く、諦めが早い。 そのくせ、うぬぼれと小欲が人一倍強い。 それから、あまり色気づかさないよう気をつけよ。これも人一倍好き者で、女の色香に迷いやすく、人のおだてに乗り、無目的にどこまでもふらふら付いて行く。 まるでお前が彼を手に入れたようにじゃ。だから再び同じことが別のおなごに対し、起きるやもしれん。
この男は、まあこの世の戒めが、すべて当てはまるような男だ。 ただお前の意のままになる男ではあるが! 心せよ、せい。 
なに みな分っておる? そうか 判っておるならエエわ。 それと呪詛と荒淫もほどほどにしておけ。あまりしつこいと、逆現象が生じる怖れがあるぞ。
(それはどういう様なことですか?)
「せい おまえが胸に手を当てて考えることじゃ」
 言い終わって、風が揺らぐように消えた。

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よねぞうの死26〔第四章〕・移植患者めぐり3

移植患者めぐり3


 「最後は大阪.吹田市にある国立循環器病センタ-にまだ入院中で、心臓移植を受けた30才の女性なの」と、おせいさんの背中に乗るとき聞かされた。
「ええ?そこは私の家のそばだ」と云うと、おせいさんは「知っているわ」と不機嫌に答える。
「これから金剛.大峰.奈良生駒の山を越えて飛ぶから、下を見ないで・・」
その意味は、にぶ-いよねぞうにでも判る。 おせいさんに言わせると、役の行者が転げ落ちた謂れのあるエリアだ。 しかし生駒の山を越える手前、奈良市の上に来たとき、学園前の長女夫婦の住まいを見たい誘惑に抗しがたく、気取られないように首をねじった。 焼きムラの出てきた古い瓦屋根が見えた。
生駒を越えたとき、思いきってそっと寝返りをうつ。 おせいさんは背中の気配で、私が下を見ているのを察したはずだが、何も云わない。
ああ 半年ぶりに見る懐かしい大阪、淀川が光っている。 

病院は生前の私の家の前だ。 道路を隔てて斜向い、大袈裟だが大声を出せば聞こえる近場にある。
ここに神戸から来ている33才の女性が入院しているはずだ。
センタ-の玄関を入るとき、おせいさんに「私の家がそこだからちょっと覗いてきていいか?」と聞くと「ほんの少しならいいわ」と投げやりな物言いだ。 次の待ち時間を打ち合わせて、我が家に近づいた。
胸がドキンドキンと高鳴る。 今日はお盆の始まりだが平日で13日の金曜日、元女房ドノのほか、誰か居るかな? と、余り期待せずに家に近づく。 
家のたたずまいは変らないが、庭木は夏の繁りで枝が伸び放題。雑草も生えたまま。 ガレ-ジを見るとバタバタ(スク-タ-)が無い。 どこかへ出かけたか? いま午後二時半過ぎだ。暑い。 腹が立ってくる。
家の中は私のいなくなった後、ほとんど変っていないようだ。 ただオレの居ついていた居間だけが机や家具が無く、代りに長椅子が占領している。
表座敷に入った。 仏壇を見る。 いつもと違うのは、壇前に脚のついた白木の須弥壇が置かれ 両側に細長い明灯が立てられ、経木と共に生け花が豪華だ。新仏の迎えの用意か。 その壇の上に、おお おれの戒名があるではないか。 真新しいのが立てられている。 なになに・・・ 
 
 祥最名院偉闇変香居士   

どう読めばよいのか、またその謂れは?浅才な俺にはよう分らん。 そこで上段の親父のと比べてみる。 祥雲院寿岳房俊居士  祥と院が同じだが、親父のほうがなんとなく、賢く香り高い感じがするではないか。 
それに比べ、俺のは 闇と変が、何となく気に入らない。 まあ明日もう一度来る、それまでに解析しておこう。
2階に上がる。 昼寝用の寝ゴザがそのまま。せめて部屋の隅にでも置け。 源三郎の部屋を見て、物凄いやりっ放しの光景に改めて寒心する。 こいつは昔から整理の出来ない欠陥人間だ。 あらゆるハイテク機械が部屋を埋め尽くしている。 足の置場のない書類の山 紙屑が散らばりホコリだらけ。タバコのにおいが部屋に充満し、他人を寄せつけないバリア-をつくっている。 
この中に100萬円ほどの純金の延べ棒を、5~6本転がしておいても、おそらく数年は発見出来ないだろう。 
 
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よねぞうの死25〔第四章〕・移植患者めぐり2

移植患者めぐり2

いま最高級のステ-キの夕食を終え、満足して部屋に帰ってきた。
もう一度シャワ-を浴び、軽いワインを開けて二人はソフア-でくつろいでいる。 よねぞうは今日の渋谷の住人の結果を聞きたくて、水を向けた。
今までよねぞうを、細やかな気遣いでイタク嬉しがらせていたおせいさんが、トタンに見るみる不機嫌な顔になって 「感じワルイッ!」 と吐き捨てる。

おせいさんは、彼女の独り住まいの部屋に入ったとき誰も居なかった。 それで、未だ会社から帰っていないのか、と思って暫く待つことにした。
部屋全体をざっと見回したところ、女性にしては乱雑で、なんとなく私生活が乱れているような印象がある。 10分もしないうちに、外の廊下で男女の忍び笑いと共にドアが開き、からみ合った二人が入って来た。 
二人は靴を蹴飛ばすように脱ぎ捨てて、そのまま絨毯に転がり、すごいキッスを続けたまま、お互い下半身の衣服をもどかしげに脱がせっこする。
男が上になってすぐセックスを始め、女は声を上げながら男の上半身の衣服を脱がせている。
「そのときあたしは初めて女の顔を見たわ 今まで男の頭が邪魔して見えなかったの。 見た瞬間 ああこれはいけない 顔が黄色く濁って黄疸症状が出ている 化粧で隠しているけどあたしには分る 腎機能が正しく働いていないのだ 女は嬌声を上げて50才ぐらいの男にしがみついていたわ 気持悪くなってあたしはすぐ部屋を出た」 
「せっかくあたしが上げた大切な腎臓を、いま一番節制すべきなのに、ああしてあの女は、享楽のために日を送って腎臓をつぶしている・・あの女はもう長くはないと思うわ・・・」
話し終っておせいさんは怒りの眼を伏せた。 夜のしじまが二人を支配する。
しかしその夜、おせいさんは何故か、いつにも増して激しかった。

翌日ホテルを出た二人は午前中に三重県.津市に飛んだ。 今度は肝臓の提供を受けた、おせいさんと同じ37才の主婦だ。
大きな昔風の百姓家で、その患者は陽の当る広い庭を前にした縁側に、すだれを掛け、部屋に続く廊下で籐椅子のベッドに寝ていた。
おせいさんは初めてよねぞうを連れて、青白い顔をした患者のそばへ行った。
眠っているようだ。 私はその顔をみて、この女性 どことなくおせいさんに似ているな、そんな感じがした。 
おせいさんは暫く何も云わず、じっとその寝姿を見ていたが、親身のこもった声音で、
「養生して長生きしてね だんなさんによろしく・・」
やさしく小さな声でつぶやいて、別れを告げた。 門を出て振り返った私の目に、役場太一郎 と肉厚の表札が映った。

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よねぞうの死24〔第四章〕・移植患者めぐり1

移植患者めぐり1

最初遠い所からと、腎臓を提供した25才の女性の勤め先、福島県.郡山市に飛ぶ。 地球時間で約1時間だ。 今度は相当高い所を飛ぶからと、おせいさんは急いで私を自分の胴に跨がらせ、下を見せるのを許した。
大平洋.遠州灘の海を右に、反対側に夏の富士山を見て飛ぶとき、鷹丸一家が1年前まで住んでいた静岡市を下に見て、今は遠いみちのくで暮している彼らを想って、いい知れぬ感慨が込み上げてきた。
 
郡山市に着いて、すぐ受供者の勤め先の会社を尋ねた。 全国的に有名な食品加工会社の事務をしているという。
駅前の目抜き通りの一角、瀟洒な新しい7階建ての本社ビル。 おせいさんは 時間はあまりかからないから「この入口で待っていて」 と云う。
目の前の「駅の待合い室で待っている」と云うと「迷い子になってはいけないからここで」という。 子供じゃあるまいし・・呟いた声が聞こえたのか、   「大勢の人が出入りする駅などで、あなたはきれいな女の人を見ると、ふらふらと一緒に何処かへ行くかも知れないでしょ、ここに居て!」と命令調。 
おせいさんと一緒になった時の前科があるから、いまいましいが黙って従うしかない。
側にある歩道のゴミ箱を見ると、捨てた新聞が目についた。
拾って読むとまだイラクへ米軍が駐留しているし、日本の自衛隊も派遣され復興支援中と出ている。 世の中、半年前とあまり変りがないようだ。
読み終わった頃、おせいさんが明るい顔をして出て来た。
「いま該当の女性に会って来た  毎月予後の検査も受けて 治療薬もきちっと飲んで大変調子がいい このまま治れば来春結婚できるようだ きれいな女性で幸せそうな顔をしていた」と、うれしそうに云う。
「そんなこと、その女性と話もせんで なんで分ったんか?」
当然という顔で、テレパシ-で全部分るんだ と云う。 まあ おせいさんは、超能力者で常人ではないからな・・・と納得するしかない。
 
午後3時半を回っているが、夏の事とて陽が高く暑い。 これから東京へ行って次の受供者に会って、今夜はそのまま泊まるという。
再びおせいさんの胴に跨がろうとすると今度は「東京は人が多いから、背中合せになって空を見ているのよ」と注意された。 云われた通りにする。
約半時間ほどのフライトで、東京.渋谷の明治神宮横の芝生に降り立った。
この東京在住の30才の女性も、片方の腎臓移植を受けて、社会復帰ができ、いま会社に勤めている。 と記録にある。
もう退社時刻だし、それに病気上がりの人だからたぶん帰宅しているはず、と見当をつけた。 だから今度はその会社に行かず、マンションの自宅に、直接訪問すると云う。 
自宅はNHKから渋谷駅に向って少し下がった途中にある。 
夕方6時まえ、その5階建ての高級マンションの4階におせいさんは入って行った。
よねぞうには久しぶりの東京、この街はいつでもどこでも人でいっぱいだ。 近くに山の手教会が目についたので、その石段に坐り待つことにする。 
よく晴れて茜色に染まった空を見て、最近東京の空はけっこうキレイになったと思って眺める。 人の群れがひっきりなく黙々と行き交う。 無気味だ。
暫くして、おせいさんが人並みをかき分けるようにして、よねぞうの前に現れた。 郡山市の時と違って不機嫌な表情である。
どうだった? と聞くと、「失礼なヤツ!」と吐き捨てるように云い 「早くホテルにいきましょ」 と私の手を乱暴に引っぱって歩きだした。 
いくら聞いても、
「ホテルでゆっくりしたとき話すわ、泊まりはホテルオ-クラよ」と云う。
オ-クラは都内でも、帝国ホテルと並んで最高級の格付で、むかし大倉財閥の総帥.喜八郎が創ったホテルだ。 たしか予約がいるが・・
えらい高級ホテルに泊まるんやなァ と云うと、おせいさんは事もなげに、 「あそこの朝食が好きだから・・」
どうも京都育ちは、よねぞうと価値観が相当ちがうようだ。
そのくせ、ケチってラッシュで猛烈に混雑する、地下鉄銀座線に乗ると云う。ところが込み合う車内を避け、ちゃっかりと運転席に乗り、虎の門で降りる。 ホテルに続く坂道を上りながら、おせいさんは、
「これからあたしが念力で、二人とも生前の姿に戻すから、それを十分意識して行動してちょうだい 分った?」
そんな事も出来るのか、と大変驚いたが、始祖.役行者があみ出した自在の術を駆使するおせいさんに、改めて畏敬の念を持つ。
放送局を通り過ぎ、人通りが途絶えた途端、二人は生前の姿に戻った。
服装も私はサラリ-マン風の夏の背広姿、おせいさんは白いノ-スリ-ブのワンピ-スに高級ブランドバッグ、軽やかな姿に変っている。
自由自在やなァ よねぞうはイタク感激する。
ホテル正面の車寄せまで来たとき、おせいさんは「ちょっと待ってて」と云い、道を隔てて建つアメリカ大使館へ堂々と入って行ったが、10分ほどして戻って来た。手に大使館員のサインをした紙切れを持って。 もう何も聞かない。
このホテルはリザ-ブがなければ一現の客は泊れないはずが、おせいさんの出した紙切れで、受付は何の支障もなくエントリ-が出来た。

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