應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死45〔第六章〕・わな5

わな5


 その夜、所氏なじみの新橋の、関西料理を売りにしている料理屋で飲食した。
 
あまり酒に強くない誠一だが、聞き上手の相手から奨められ、だんだんと興に乗り、今年冬、別居中の妻と離婚したが、すぐ再婚したいきさつ等饒舌になってすっかり出来上がっていく。(前妻の自殺と、愛人であったいまの妻の関係は伏せて)。

つぎに銀座資生堂裏のバ-に入った。
そこに所氏の知り合いと称する、K興業の専務竹内弘という60才前後の人物と、その部下2人に引き合わされた。 

美人たちにも囲まれ『テレビにも出る学者先生』とおだてられ、とくに右隣に坐った、髪の長い目の大きい美人をいたく気に入り、誠一はいつにも増して羽目をはずしていった。

日付けが変る頃、予約しておいたホテル名を、ろれつの回りにくい舌で運転手に告げたまでは覚えている。


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よねぞうの死44〔第六章〕・わな4

わな4


 3年前の秋、京都で私立も含めた全国大学の○○総会が開かれた。
そのとき誠一も、地元大学で奉職している関係上、一つの分科会の世話人を受け持たされた。 
そしてその時、TK大学の講師も兼務するW大学の客員教授の所勝三と知り合った。 3日間の日程で開かれた会が終ったときは、らい落そうな所氏と親しくなっていた。 最後の晩、京都円山公園内の料亭に案内し接待する。
京料理とそのもてなしに、いたく感激した所は「今度は東京へ来られたらぜひお返ししたい」と云った。 

それから半年ほど経ち、ある政府省庁の設置した、大学改革等委員会と称する委員として出席したとき、偶然隣席に所氏がいた。 それを機会に、今では上京するごとに所氏と連絡を取り合い、接触する仲になっている。
昨年3月初め、ある省庁の研究補助金査定の参考人として、諮問会に出席するため上京した。

 誠一をここ数カ月悩ました前妻が、離婚と同時に自殺したが、永い間の家庭内紛にケリがつき、心の底からほっとした気分でいる。 

一時せいの自殺を知ったとき、誠一は仰天したが(せいの親は世間体をつくろう為か、関係機関にうまく手を回し、病死として届け葬った)。

これで誠一は、己の上り坂の名声が陰ることなく助かったし、晴れてたま子と実子を入籍でき、なにもかもうまく運んで満足している日々だ。

余裕のある気持が目的会議の2日前に、誠一を新幹線に乗せた。
 

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よねぞうの死43〔第六章〕・わな3

わな3


 せいは報復といっても単純な、例えば交通事故のような一回限りで、目的の終るような復讐は最初から考えなかった。 相手は生きている限り、挫折や悔恨.懊悩.心身の痛みを、休み無く与えるのだ。

昨年夏、せいは元夫にある謀を仕掛けておいた。 その結果は?

 少壮の法学者として、政府機関関係のある法務研究委員会に名をつらねたり、公的機関の顧問やテレビなどのコメンテイタ-として、いま売り出し中の元夫の名を、間接的に貶めることから始めるのだ。 せいは誠一の家に急いだ。

その夕刻 誠一は家の近くの喫茶店で、東京警視庁から来た捜査官二人を前に話し込んでいた。 中味は事情聴取である。

事件は今年に入って、東京のW大学他で数年前から起っていた、国公機関からの研究費等補助金を巡って、業者等からの長期で大がかりな贈収賄である。

この事件は新聞テレビ等で報じられ、その渦中に数年前から知り合った、所勝三という人物の名前が、取りざたされていたから誠一は大いに関心をもち、ある程度概略は知っていた。 

事前に連絡があったとはいえ、刑事たちの今日突然の接見にとまどいと、かすかな不安感がない混じり、内心落ち着かなくしている。
しかし新聞等の報じている限りでは、この事件は渦中にある所氏や関係者と知り合う以前のもので、誠一との直接関係やからみも無し・・ ただ一つ小さいが気がかりと云えば・・・

それは渦中の所氏に取り持たれ、東京で深い関係になった女性が居ることだ。これがこれからの事件の進展によって自分とどう係わってくるのか・・・


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よねぞうの死42〔第六章〕・わな2

わな2


 誠一と結婚したのはせいが22才のとき、いま振り返ってみても穏やかな15年の歳月だった、と思う。 
表面おだやかな性格と、時が経つにつれ法曹界では頭脳明せきな少壮学者として認知され初めた誠一、名前にも誠実を表す一字を持った夫をせいは、全幅の信頼をおき心から深く愛していた。  

 それが一転、発覚したときの夫の 非はおまえにある、と人変りしたように激しく云い募る、それも精緻な論理まで交えた言動と表情、その落差の大きさは、あまりにもショックが強く、暫く精神的に立ち直れないほどであった。

浮気、そして子供までつくっていた5年あまり、その片鱗さえ見せない完璧な二重生活を、察知できなかった愚かな己のうかつさも倍加して、前夫に怨念をたぎらせたのだ。

せいは彼岸で、阿修羅の世界に迷いこんで来たような、淡白なよねぞうと所帯を持った。 しかし表面纏綿(てんめん)とした新婚生活を装いながら、復讐心は片時も忘れるどころか、いや増していた。

さすが阿修羅の世界だ。 住んで暫くして知ったのは、なんと怨念の持続.習得倍加を目的とした、いろんな学習塾や、予備校めいたのが幾つもあるのには驚いた。
そこは前述した瞋に(しんに)の世界に身を浸し、怨念.復讐の鋭敏さとその方法を会得することであり、その習得に通うのは、俗世で様々な過去と体験を持つ人々らしい。


せいはよねぞうに気取られないよう、細心の注意を払いながら、時々家を留守にして、その一つの塾(サ-クルといってもいい)に参加し研鑽に励んだ。 


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よねぞうの死41〔第六章〕・わな1

わな1


 元夫の父母である吉田太一郎夫妻の現状を、念力で観察し見届けたせいが次に向ったのは、誠一夫婦の住む左京区である。 

そこは聖護院の近く、東大路通りを東に入った近衛町にある。 旧い屋敷町の並ぶ裏手に鉄筋三階建ての低層マンション、その3階3LDKが今の住まいだ。
誠一の勤め先K大学も歩いて10分あまり、閑静な処だ。
せいと夫婦で住んでいた上京区京都御所の北.同志社裏の木造住宅を売り、半年前からここに住んでいる。

せいの怨念と復讐心をたぎらせるのは、夫誠一とその実父母に対してである。

いま誠一の妻になっているたま子は、福知山の農家の出身で、せいから見て平凡で容姿も取りたてて良いとは言えない、まあ自分より若い普通の女性だ。

本来なら自分の夫を誘惑し、子供まで成した相手の女に嫉妬の炎をたぎらせ復讐するのが憤怒のはけ口だし 家庭を崩壊に追い込んだ相手の女性を憎む感情は当然あった。 

しかし、それにも増してたま子を誘惑し、積極的にリ-ドしたと云う誠一のほうは許せなかった。 許せない例えに使う『共に天をいだかず』は、あの世にいったせいには皮肉にも、通じないのだ。 
いま妻になっているたま子や子供は、後回しだと思っている。


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よねぞうの死40〔第六章〕・夫婦の病難

夫婦の病難


 太一郎はここ10年、軽い風邪をひく程度の健康体であり、最初2~3日もすれば平常に戻るだろうと思っていた。 高熱は3日ほどで平熱に戻ったが、この日を境に その夜からそのまま長く寝込む羽目になる。
躯がだるく気力が衰え、常に何かの不安にかられ軽い鬱状を意識し、何もする気が起こらなくなった。 


秋の半ばを過ぎても心の病状ははかばかしくなかった。
太一郎は30才すぎから盆栽にこり、庭には展示会入賞のある幾鉢かも含めて100鉢以上(特に松柏もの)が並んで、手入れするのが生き甲斐のような毎日であった。 それがあの日を境にどんどん興味が薄れていった。
趣味の愛好者でつくっている会にも出席せず、床に着く日が続いた。 年末には数鉢を残して、手入れの出来ない盆栽を惜し気も無く同好の人々に譲った。中には銘木で数十万円もする鉢もあったが・・・

 年が明けても病状は変らず、息子誠一のツテでK病院で全身の精密検査を受けたが取り立てて異常は無かった。 
誠一は後日病院へ行き、各担当医に会い改めて聞いたが誰もが、原因所見の書きようがない、また精神神経科の医者も首をひねっていた と云う。


それより別に、同時進行で妻のほうにも大変心配ごとが起きていた。

妻華子も太一郎同様、日ごろ医者知らずの健康体で、ここ数年市保健所からの通知の無料検診さえ受けていなかった。 
病院へ夫のつき添いで行ったとき、せっかく来たのだからと誠一や周りの医者に奨められ、循環器系や婦人病の多い箇所の検査を受けた。

その検査の結果が1週間後にもたらされた。

 「右の乳房の裏に異物の疑いあり」との所見。

 あわててもっと精密検査をすることになった。
最初マンモグラフィ-では分らなかったが、ヴェテランの医者の触診と、生検で判った。 癌であった。

幸い華子の癌巣は小さく手術は成功し、いま抗癌剤での治療は続行中で、担当医は大丈夫と云ってくれているが・・


過去十数年、これといった事故事件なく平穏な日々が続いたが、あの水難事故から半年あまり、夫の原因不明の病いはだんだんと悪化しているのが分る。 そのうえ自分までもが、再発の不安を押し殺して生きるつらさが日々さいなむ。 度重なる陰うつな不幸が、いつか夫婦の気を滅入らせ、暗い生活が過ぎて行く。 なにかの祟りだろうか?


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よねぞうの死39〔第六章〕・水難4

水難4


 後ろから不意打ちをくらった老夫婦は前のめりに押され、川中の孫は仰向けに押し倒され、瞬時に見えなくなった。

今までの清流があっという間に真っ黒い泥水に変り、氷のように冷たく渦を巻き、音を立てて周りのものを押し流していく。 それでも太一郎はすばやく起き上がり、うつ伏せに倒れた妻の手を強く引き立上がらせ、中州の高みに移るよう命じた。
増水の嵩はたいしたことはないが激流だ。

 しっかり立っておれッ 

と妻に言いおいて、目の前から居なくなった孫の鋭一を血眼で探す。
30メ-トルほど下流をチラッと白いものが見えた。 鋭一のパンツと直感した太一郎は黒い濁流に飛び込んだ。 

ものすごい勢いで下流に流されながらも、少し泳いだ所で流れに逆らって立って見る。 胸元までの水嵩、目の前に泥水は渦を巻き氷のように冷たい。

宇治川と違って支流の山科川は、川幅の狭いぶんだけ浅深の差が大きい。 狂ったように太一郎は再び下流を目指す。 そのとき脚が砂地に着いた。 立上がる。 ここは膝までの深さだ。 下流に目をこらす。 すると20メ-トルほど下にまた白いものがチラと見え、小さなシブキの上がるのが見えた。

太一郎は大声をあげ突進する。 再び川底が深くなったところで、やっと鋭一に追い付いた。 手を伸して孫の躯を引き寄せる。
とたん鋭一は無意識に必死に祖父の体にしがみついた。 一瞬太一郎は自分の衣服のまといつきと、孫の体の重みで川底に沈み込む。 あわてた太一郎はその時大量の泥水を呑み込んだ。
やっと孫を抱き浮き上がったが、今度は両腕を祖父の首に、渾身の力でしがみつき救助者の体の自由を奪う。 太一郎は何回も大きく泥水を呑む。
それでも少しづつ岸辺に近づき、護岸ブロックの切れ目に辿り着いたときは、力の尽きる寸前であった。 

 鋭一も大量の水を呑んでいたが、川の中で祖父にしがみついたとき、強く抱き込まれ、そのため腹部を圧迫し、幸いその拍子に泥水をほとんど吐き出していた。

妻の華子は中州の小高い草むらの大石に乗り、無事であった。

岸辺にいた人々が、三人の危難を見てすぐ救護所に連絡してくれ、病院に運ばれた。


  祖父と孫が救急病院へ運ばれ、泥水を呑んだ胃の洗滌措置を受けた。
孫の鋭一は様子見のためそのまま入院したが、太一郎は水の事故を引き起こし、病院に担ぎこまれたことを老人らしい失態と、世間体を気にしその日の内に自宅へ帰った。 ところがその晩遅く高熱を発し、あわてて近くのかかりつけの医者に来診を乞い、解熱の処置を受けた。



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よねぞうの死38〔第六章〕・水難3

水難3


昨年 盆の過ぎた8月の下旬の午後太一郎夫婦が、夏休みで遊びに来ていた幼稚園児の孫の鋭一を川遊びに連れ出した。
家の近くに桃山.宇治川と合流する少し上手の山科川へ。 
川の中程に小高い堆積の石磧によもぎの茂った小さな中州がある。 そこへ大人の膝までの水かさを歩いて渡った。 まだ真夏の陽射しを残した空はくっきりと晴れている。 
祖父母二人は磧に坐り、孫は白いパンツの水着、足首までゆるやかな水の中に入り、川を背にして祖父母にしきりにふざけて水をかけ、その都度3人は喚声をあげる。 中州の周りにも何組かのの親子づれが見られた。
暫くして太一郎は遠く東山の方で雷鳴と稲光りを見たが、あまりに鋭一が喜びはしゃぎ自分たちも愉快なので、気にせず孫の相手に夢中になっていた。
3人は時間の経つのも忘れ、気がつくともう4時前。 周りの人たちはほとんど引き揚げ、中州には自分たちだけになっていた。 
そろそろ帰ろうかと思案したとき突然、ごう音と共に50cmほどの鉄砲水が現れた。 一瞬の出来ごと。


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よねぞうの死37〔第六章〕・水難2

水難2


 JR奈良線の桃山駅で降り、寺の角を曲って暫く歩くと小学校の近くに旧家の家並が見えた。
その中でも築地を巡らせ風格のある堂々とした門構えの邸、表札に吉田太一郎とある。 
横のくぐり戸の上にも太一郎.華子、と妻の名前を並記した横札がかかり、この家の住まい人を表示してある。
せいは死ぬ前まで、何度も出入りしたその門の前を通り過ぎ、横道に入りじっと目をつむり念を集中させ邸内の様子を探る。 

幾つもの部屋の奥。
主の太一郎は、息子誠一のコネでK病院からやって来て、かかりつけとなった医者の診断を受けている。 側に妻の華子が心配そうにその医者と、夫を交互に見つめている。
ふとんの上で横臥した太一郎、これが昨年までの義父かと驚くほど病み衰え、上半身をさらけた胸は、骨とたるんだ皺の醜い姿をあらわにしている。

医者はいつもの注射を打ちながら、額の立皺を濃くした表情だが、
「まああまり変わりがないようです 食欲はないようですが、できるだけ精をつけて薬はかかさず飲んでください」
検診の終った医者は席を立った。 
医者の見送りから部屋に戻った妻は、病みほうけた夫に布団を直してやっている。 
どちらも無言だ。

その妻の華子も、せいのいた生前は、どちらかといえば太り気味であったのが、今は痩せて十才も歳をとったかと思われるほど老いて見える。 色の白かった顔が、今では手足も共に青黒く、頭は黒いベレ-のような帽子をかぶっている。
 


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よねぞうの死36〔第六章〕・水難1

水難1

 役所せいが夫と別れて10時すぎ、父母の健在を確かめるため京都上賀茂の実家に着いた。
顔にめっきり皺の増えた父が、庭の一部をヒバ垣で囲った50坪程の菜園に畝をつくり、腰をおとして春の種まきをしている。 
母は春の陽射しを浴びて、枯れ山水の見える庭に面した縁側で、猫背になって趣味の刺繍に余念がない。 どちらもまあ平穏な様子。

安心したせいは、そのまま伏見桃山へ急いだ。 そこには生前別れた夫の生家がある。 
昨年の盆に来たとき、秘法を使ってある仕掛けをしてあったのを確認するためだ。 
夫はK大学法学部の気鋭の助教授で、人気が高く将来を嘱望されていた。
それがいつか、せいに隠れて教え子の女子学生と不倫のうえ、なんと5才程の男の子まで成していた。 それも偶然葵祭の群集の中に見つけて判った。
せいのような女が、迂闊といえばこれほど鈍なことはない。

それはさておき、せいの最も我慢できず許せないのは夫は当然として、その両親だ。 いつまでも日陰の子としておく積りはなかったはずだ。 いつか今の妻と別れるのを当然期待し、実現するのを待っていたに違い無い。


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よねぞうの死35〔第五章〕・墓詣り

墓詣り


 今日は彼岸の中日、朝10時すぎ、よねぞうは生前の自宅へ向った。

 少し雲のかかった春の空、蝶の舞う公園を横切り家に着いた。 
さぞや仏間は彼岸らしく、すっきりと飾ってくれてあると期待してきたが、不在のようで誰もいない。
無人の家の中に入った。 確かに仏壇には灯火台.献花台に季節の花や供物が上げられ、いつものしきたりに従った供えをしている。
よねぞうは暫くそれを眺めていた。
それから無人の家中を探索したが、ほとんど昨年夏と変っていない。 
居間の応接物や、壁の絵が少し変った程度だ。 
2階に上る。 源三郎の部屋の乱雑さは相変わらずだが、パソコンとその周辺機器類が倍増している。
再び階下に降り椅子に坐っていたが、ふと自分の墓の有様に興を起こし、北摂霊園に行く気を起こした。

おせいさんの時空泳を借りる訳にいかないので、テクテクと相当きつい山路を登る。 生前は車でしか見回ったことが無いから息が切れる。
カ-ブは多いが舗装されており、けっこう車の交叉がある。勝尾寺方面に行く車も多いのでヒッチハイクしたいが、残念ながら今は己の姿が人には見えずままならない。 それでも3時間余りかけて坂を登り切った。

霊園は大阪府が開発.茨木高原C.Cに隣接し、広さは甲子園球場の10倍以上あり、擂鉢状の地形に35年の歳月をかけて30萬墓を造る超大規模だ。
さすが彼岸の中日だけあって大勢の墓参者の姿が見える。 わたしの墓地は北の端、一番高いところにある。

自分の墓地に着いて驚いた。 なんと巻石だけだった墓地に黒御影の石塔が建てられ、その周りに元女房ドノや子供たち(源三郎.晶子.善二郎と孫の夏子)が手を合せ、各人が数珠をまさぐっている。 神妙な顔つきだ。
 
ヘ-エ 集まるとアホばっかり喋っている、うちの家族にもこんな姿があるんだと一驚すると共に胸が熱くなる。

 やっぱり詣ってくれていたんだ。

近寄って墓標を見る。 高さは周りの墓石と余り変らないが、やはり例の
「祥最名院偉闇変香居士」と彫られ、横に建立した年月日、それに長男鷹丸と女房ドノ(ヒミコ)の名前が並記され、女房は赤い信女(生前)だ。
イヤミヘンコは気に入らないが、まあ忘れずに墓石を建ててくれただけでもうれしい。 しかも皆で詣ってくれている姿。

よねぞうは暫く春の陽にふくらんだ山桜の蕾を眺め、またその眼を墓を取り巻く家族に移す。 
胸の内にひたす暖かい想い、せき上げてくる感情を必死に押えていた。




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よねぞうの死34〔第五章〕・移植患者巡り

移植患者巡り

 昨夏の経験から二人は要領も分っており、おせいさんの臓器移植を受けた人々の各地をスム-ズに巡った。

福島.東京.三重を廻りそして4人目の、この前は未だ循環器病センタ-に入院中だった神戸.灘の34才の女性患者は無事退院していた。 灘の家に行くと元の勤務先に復職しており、平穏に過ごしていることが判った。

明日は彼岸の中日という前日までに廻り終え、二人はいま大阪のRホテルに投宿している。

福島.郡山市の腎臓移植者は、なんと明日の春分の日に結婚することになっている。 相手は自衛隊員だという。 おせいさんは手放しで喜んだ。

同じ腎臓移植を受けた東京の女性は、昨年おせいさんが予想したとおり、予後の不摂生から腎臓を悪化させ入院中、それも重症とのこと。 その日中よねぞうが話し掛けてもおせいさんは鬱として機嫌が悪かった。

三重の津市で自宅療養していた主婦は健常者に戻り、明るい家庭を取り戻しているらし。 確か役場という姓やったなあ!と、よねぞうがいうと、
「よく調べると やはりわたしの遠縁になるらしいわ」
おせいさんは遠くを見るような目でつぶやいた。

「明日は彼岸の中日だから、それぞれの家で過ごしましょう。 あなたは自宅へ帰ってくれていいわ そして2~3日自由にして」

「あんたは?」

おせいさんは京都の父母に会いに行くと云う。
よねぞうは別に異存がある訳ではないが、できればおせいさんと一緒に行動したい気が動く。(何処へ行って何をするにもなにかと便利だ、一緒になって今では小さいことでも指示されるのに慣れていた)
だからいっしょに と云いかけたが、甲斐性ナシと云われるのを怖れて口を噤んだ。


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よねぞうの死33〔第五章〕・よねぞうの考えごと4

よねぞうの考えごと4


 案の定、その晩ベッドに入ったとき、おせいさんが頭をよねぞうの胸に載せ、彼岸にあちらへ行きましょうと云った。

「去年の秋の彼岸に行かんかったやないか なんで春やねん?すぐ盆くるでェ」

「もう半年以上経ってるし あなたも家族に会いたいと思うので・・」

「おれ べつに・・」

「前にも行くときに聞くといまと同じ返事やったわね 薄情もの・・」

言葉は柔らかいが、非難する因を含んでいる。
前世の妻や家族に積極的に会おうとしない返事に、今度はなじる言葉を口にする。 昨年夏わたしが、自宅に寄って来ると云ったときは不機嫌そうな態だった。 
時と場合で表現や態度を変える 変なヤツ・・
どちらでもエエけど・・と云うと、くるりと躯を回し、頭でよねぞうのアゴを押し上げ じゃあ一緒に行くわね と念を押す。 
あまり気乗りしない調子で、わたしは ああ と云った。
 
彼岸・・・波羅密多・「彼岸に到る」春.秋の中日 その前後を合せて7日間が彼岸会という仏事だ。

去年の夏と同様、私はおせいさんの尻に頭を載せ、3月20日に再び人間界へ旅立った。


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よねぞうの死32〔第五章〕・よねぞうの考えごと3

よねぞうの考えごと3


人間界ではそろそろ春の彼岸の入りが近い。

昨年お盆に、おせいさんの臓器提供をうけた患者の、その後の見巡りを兼ねて時空超えで二人は人間界へ行ったが、その年の秋の彼岸はこちらで過ごした。 まあこちらに帰って1ヵ月しか経っていないんだから・・・

昨夜おせいさんが、夕食後の片付けをしながら何気なく、春の彼岸が近づいたわね とつぶやくように云った。

その時よねぞうはすぐ(また行くつもりか?)と思ったが、聞こえぬふりをして黙っていた。 
よねぞうとすれば、自分の家族にも会いたい情は動くが、それより今はおせいさんの胸の内の深層だ。 聞いてもはっきりと云わないが、去年行ったとき何やら、前の夫に復讐のような仕掛けを施した気振りがある。 それを折りあるごとに遠回しに聞くが、ニべもなく取り合わない。 何をどうしたか分らないが取り敢えず、よねぞうにすれば係わりのないことだ。

しかし元来小心者のよねぞうは、そんなものを見聞きしたり、ましてや事件事故なぞに巻き込まれるのはご免だ。
しかしおせいさんの性格から推して、決めたことは止めないだろうから、多分今度の彼岸には行くだろうと思った。 しかし今見た短い夢も何かの予兆暗示かもしれない と、悪いほうに考えが転がって行く。
 


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よねぞうの死31〔第五章〕・よねぞうの考えごと2

よねぞうの考えごと2


 阿修羅は四大阿修羅で、須弥山(しゅみせん)世界の地下にいる。
ラゴラ阿修羅は大変驕っていて、天上の天女を見たいと思ったが、陽に遮られ手を翳したのが、日食月食の始まり。
勇健阿修羅はその下に居て、人界を滅ぼそうとして竜王を怒らせて地震を起させてしまう。
花鬘(かまん)阿修羅はまたその下に居て、竜王と闘って勝ったが、その上の天使を怒らせたため、すい星を出現させる。
毘摩質多羅鉢呵娑(びましったらはかしゃ)阿修羅王=第四層に居て、最も勢力があり驕りたかぶっている。 
上層の三阿修羅が、諸天と闘って破れて帰ってきたので大いに怒り、直接須弥山上の帝釈天と闘う。 このときが世の乱れる時だ、という。
ところがあるとき、帝釈天に負け捕らえられ縛られながら、悪口雑言を吐き散らすが帝釈天は、
「こいつは無知な口先だけの者だ。 愚者は罵倒するが智者は黙す、それが智者の勝利。 怒りに対しいからないのが最上なるものだ」
修羅場と化した戦場 など、すさまじい闘いの形容詞にも使われ闘争を意とする。
この阿修羅も、最後は仏教では夜叉と竜とともに仏法を守護する八部衆の一人に数えられる。 

ここまで読んできてよねぞうは、
(怒りや闘争 嫉妬 きょう慢 愚痴 煩悩などは分かったが、おれの性格とあまり関係ないわ お地蔵さんに小便をかけただけだし、小心で小欲根性などはその他大半の人も持っている弱点だ。 この世界へなんて合点がいかない。 
 それよりもおせいさんの、ある焦点の合わない不透明な部分にもどかしさが感じられる そのほうが不審だ。 なぜおれはここに居る?)
突き詰めて考えるのが苦手なよねぞう、あくびを漏らしうたた寝を始めた。
そのとき奇妙な短い夢を見た。
まず網膜に写ったのが、前屈みになり右手を口に左手を振り、何か叫んでいるおせいさんのうしろ姿だ。 よく聞くと、どうやらわたしに向って「行ってはいけない・・」と繰り返し 何度も必死に叫んでいるようだ。

(なんや おれここに居るやないか!?・・・)

そこで目が覚めた。 まわりを見回す。 

数分まえと何も変っていない。
           


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