應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死60〔第七章〕・慈心

慈心

 ここにきて、せいは少し迷っていた。
誠一の無限地獄のような毎日は、吉田邸を見張っていてよく分った。 
子供の鋭一を四六時中緊張しながら見守っており、常に何かにおびえている様子が伺える。 以前の様な覇気が無くなり、日々消沈していくのが見て取れる。

が、それを見ている復讐者のせいは、当然快哉を叫ぶべきなのが、どうもこちらに来てみて、余り心を動かされなくなった。 妙な心境だ。

お盆が終り、明日よねぞうと彼岸へ帰る予定になっている。

せいは最後に、いま誠一の妻になっているたま子にも、何かの仕組を施すべく伏見の屋敷に行った。 

ついこの前までの、復讐心をたぎらせる弾むような気持ちが、いっこうに沸き立たないのはどうした心の変化か。 今もあまり気が進まないが、せい自身には分らない。

 いつの間にかせいに何かの変化が起っているようだ。

例によって 吉田邸の横道に入って念を切った。

太一郎は相変わらず病室で、力のないセキを繰り返している。 
今日はたま子が目的だ。 
ところが家中を探したが、太一郎だけで他に誰もいない。


 午前11時、真夏.曇り空だが今日も暑い。 せいは辛抱強く待っている。

暫くしてたま子が姿を現した。 買い物から帰ってきたのか?! 小柄で平凡だが、色が白く素直そうな人柄に見える。

袱紗(ふくさ)様の布で包んだ小さな物を、両手で胸に抱えるようにして和室の部屋に入った。 そして誰も居ないのに、周りを気にするような仕種で辺りを見回す。 
この部屋はどうやら自分のものらしい。 小さな紫檀机の前に坐り、手にしていた袱紗を開き、中の物をそっと机の上に置いた。 
小さな位牌だ。
その位牌の院号を見た刹那、せいは強烈なショックが身体を貫いた。 

なんとせいの戒名ではないか・・?? 
なんの為にわたしの位牌を? 
戒名をなぜ知っている? 

疑問が押し寄せた。

たま子は位牌を前に頭を下げ手を合せ、小さくつぶやいている。 

「許して下さい・・」を繰り返しているのだ。 

ゆるして下さい? 
だれに? 
どうしてこの子が?

あまりの驚きに、せいは我を忘れていたが、暫くして大急ぎでたま子の脳幹に入った。
するとどうだ、外見の表面上は平凡なたま子だが、その性質は、せいなどとても及ばない持主であることが分った。
すなわち知性.教養.洞察.沈思 それに人間として一番大切な慈愛(慈心.大悲)あふれた女子だったのだ。

1時間後、たま子の心をすっかり読み解いたせいは、虚脱状態でそうろうとして吉田家を離れた。 

このたま子だけは、責めるのはやめよう と思った。 

たま子の心はこうだ。
平和であるべき誠一とせいの中に、自分が心ならずも入りこみ、あまつさえ鋭一という子供まで成した女。 それを知ったせいを、自殺にまで追いやり人倫の道に背いた業.罪深い女。 せいの心を忖度し、日夜悔恨にさいなまれ、許されないだろうがせめて自分だけでも供養を と思い定めた。
せいの実家、役所家に昔から出入りしている仏壇店を探し、せいの戒名を知り、家人に内緒で別の店で位牌を造り、今日持ち帰った所だ。
昨年夏から吉田家に起る災厄の数々は、全て自分が原因で引き起こしている、と賢く冷静なたま子は洞察して、懺悔の心は日夜自分を責め続けているようだ。


もうこの子だけはそっとしておいてやろう。



いよいよ、最終章へと続く

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よねぞうの死59〔第七章〕・脅迫3

脅迫3

 誠一は、今までの収入のほとんどは断たれたが、自分や父母の多少の貯えの他、万一のときは、家屋敷を処分してもいいと腹をくくっていたから、竹内の申し出は即座に断った。
「今後のことははっきりお断りします。 それより過去の私に対して下さった、貴社の出費の清算をお願いします」

さすが竹内は、誠一の直截的で性急な物言いに鼻白んだ顔で、隣の北島を見る。 北島が、

「吉田さん、昔から 覆水盆に返らず と云いますね。 世の中、あなたのおっしゃるように『金銭で清算して、過去のことは全て終り』という訳にはいかないですよね。 書いた過去は一生ついて回り、リセットがきかない。 よくお考えになったらいい、これは私からのアドバイスです」

そばから竹内が、

「まア 今すぐに、ご返事頂かなくとも結構ですよ、損得も含めよくお考えになって、後日よいご返答お待ちします」

一息入れて北島が、いま気がついたような声を出した。

「そうそう吉田さん、貴方のお邸はたいへんご立派ですね。 さぞ由緒あるお家柄でしょうな。 またあの周りは閑静なお邸街で、さすが古都京都ですな。
ところで吉田さん あなたに小学2年生の男の子がおられますよね、可愛い盛りだ」


どうやら住所や、個人的な家族まで調べ上げてあるようだ。

「目に入れても痛くないでしょう。 だけど気を付けて下さいよ、最近はどこでどんな事が起きるか分らない時代でしょ・・」

私も最近、所用でお宅の近く御香宮神社へ行ってきたが、側に国道が走り、その他の道も古く曲った狭い道路が多く、車の往来が激しく驚いた、と続ける。


「子供さんの通学など、万一事故など起きないよう、十分気をつけてやってくださいよ」


交通事故に気をつけましょう・・・


一般の人が聞くと単なる交通事故の標語にすぎないが、今の誠一にとっては、明らかに子供を人質に取った、いつまでも気の休まる事のない巧妙な脅迫.どう喝の言辞だ。

司法を生業にしていた誠一はいま、完全にワナにはまったことを認めざるを得なかった。

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よねぞうの死58〔第七章〕・脅迫2

脅迫2

 その後しばらくして、W大学の所氏から「K興業は表面上はタクシ-が主業であるが、不動産.それに新宿方面で、遊技.風俗店その他サ-ビス業を手広く営み、どうやらそんな関係で、関東の有力暴力団と関係を持ち、また東上して来た関西の広域暴力団とも、つながりがあるらしい」と聞いた。

 いま改めて逆境になり、自分の立場がはっきりと浮き彫りになると、一刻も早くこの連中と縁を切りたく焦っていた。 ましてや深い闇の連中との深入りは、どんな手段を用いても絶対に避けなければいけない。


「いや 今はもう私には何の力も残っていません、お世話になった過去の清算をしたいので、立て替えて貰った金銭の額を云って下さい」
再度繰り返す。 

すると側に坐って両腕を組んで、二人の会話を聞いていた北島が腕組みを解いて、

「私は以前からあなたの事は聞いていたが、これは少し身勝手な申し出じゃないでしょうか?」

言葉は穏やかだが、声は底力のある、人を威圧するような響きだ

「あなたの男女関係に対する、過去の当社の金銭負担は別として、なるほど今我々が調べられている贈収賄事件と、あなたとは直接関係はないが、私の聞いたところによると・・」

と云って昨年秋、誠一が環境プロジェクトの委員ををしていた時、予算の割り振りに、W大学への口利きめいた事を画策したことを持ち出した。

「いずれ事件の広がりによっては、あなたの係わりも出て来るんじゃないでしょうかなぁ」

竹内が側から「北島さん そんな将来の話を持ち出さないで」と押えておいて、

「どうでしょう、今これと決った事案をお願いしている訳ではありませんが、こんな商売をしていると、表立って動くことの出来ない事柄も多いんですよ。あくまでも表に出ない形で・・」 言葉をついで、

「失礼だが、ちょうど貴方は今回のことで、休職されたと聞いています。 だから以前よりも時間的な余裕ができて、動き易くなるんじゃないですか?!」 

言葉はあくまでも穏やかだが、誠一の現況を知りつくし、足許を見ての強要だ。 そして、立ち入って恐縮だが、収入などの不安は? と聞く。 もし私の申し出を受け入れてくれたら、今後ご一家の生活は全て面倒を見ましょう、と云う。


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よねぞうの死57〔第七章〕・脅迫1

脅迫1

週刊誌に暴露記事が載った日から旬日して、東京のK興業の竹内専務から、都内のホテルに呼び出された。

その時は誠一も、女性関係が気がかりなのと、今までにK興業の立て替えてくれた金銭が幾ら位か、できれば会ってきっちり話をつけようと思っていた。 
呼び出しがあった時、わたりに船という気で上京した。

新宿のあるホテルの個室で、K興業の竹内専務と会った。 横に小太りで目つきの鋭い40過ぎの男が同席している。 竹内から「私の個人的な相談役の北島です」と紹介を受けた。

「いや-どうも」
顔を合わすと誠一は、呼び出し事由を聞く前にバツの悪そうな表情で、早速いま話題になって、週刊誌他に書き立てられている贈収賄事件や、誠一の情事関係について、グチのような、また言い訳とも釈明ともつかない言葉を吐く。  
また贈収賄には係わっていない事を、この二人に再確認して貰いたく力説した。それに過去K興業から、東京で世話になった諸々の金銭について、全額払う旨を告げ、請求額を要請した。

この拙速で短絡直截的な申し出に、竹内専務は笑顔で、
「今日来て頂いたのは、過去の当社が立て替えたお金の話ではありません、それはもう忘れて下さい」 

穏やかに云い、ところで・・と言葉を接いで要件を切り出した。

「以前、箱根に行った晩お願いし、そのとき快く引き受けて下さった当社の相談役のこと、ぜひお願いしたいのです」

一瞬誠一は思い出した。 その時の竹内の要望は、 
当社は仕事柄、首都圏だけでなく、関西方面の中には仁侠団体と繋がりを持たざるを得ない時もある。 そんなとき、蔭の相談相手になって貰えないか。 貴方は司法の学究者で知名度もあり、またその方面の知人友人も多いでしょうし、当社の知恵袋として、これからあくまでも表に出ない形で、何かと力を貸して欲しい。 

 これに対して誠一は、その時飲食が過ぎ、有頂天でハイな気分から「表に出ず、蔭からのアドバイスならいつでもどうぞ・・」と、軽く応諾した。

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よねぞうの死56〔第七章〕・苦脳4

苦脳4

ところが予兆もなく暗転が起ったのは、今年の冬、週刊誌にバクロ記事が出た直後からである。 嵐のようにどの記事やコメントも、真偽を織りまぜ針小棒大に、 これでもか と世間に吐き出した。

いままで自分が出演していた、バラエティ番組の事前録画は当然放映中止、それどころかその番組で連日、逆報道される始末。 

勿論それにすこし遅れて、政府系の諮問会や研究会等の出席停止.辞任を求められた。 大学も休職を強いられ、受け持っていた講議.講座も無くなった。
今は以前に比べ、丸裸同然になっている。

もちろん司法関係の、しかも大学でそれを本職として歩んできた誠一には、恩師も含め、検事や敏腕弁護士等の知人友人は大勢いる。

しかし世の中、当人が逆境になると掌を返すように離れていく。 できるだけ係わりたくない、つまりそれら関係者は陽の当るあいだ、表面上見せかけの関係者に過ぎなかったし、結論から誠一に徳がなかったと云えばそれまでだ。

今のところ事件そのものは、誠一の係わりについては大した事でなく、これが例えば芸能界やスポ-ツ関係なら、色恋など一つの勲章として、話題作りになるものを・・

しかし誠一のような、過去に挫折を経験した事のない男は、我慢ならない出来ごととして、自身にムチを打ち続けている。
すでに30才台で講師になり、40才前後で教授.そして将来は部長、名誉教授の席まで可能性あるような者には、一般人には逆に理解し難い心裡だろう。 しょせん閉鎖された学者の世界で、自己完結していたようだ。

前妻のせいに比べ、たま子は結婚してみると極めて平凡で、どこにでも居る一般的な主婦であった。 せいのような適切な表現と、ときには機智にとんだ会話は望むべきもない。それに父母の長い疾病だ。 父の原因不明の病いに続いて起った母のガンと転移、自分自身のスキャンダル、まるでなにかのタタリのようだ。 その上いま自分自身、誰にも言えず、どこへ訴える事もできない、巧妙な脅迫を受けているのだ。 

 
 校庭の樹の蔭で、息子を待ち乍ら誠一はまたK興業.北島の言葉を反芻していた。

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よねぞうの死55〔第七章〕・苦脳3

苦脳3

誠一はいま、息子の通う小学校の校庭で、鋭一の授業の終るのをある緊張感を持って辛抱強く待っている。 
風のない真夏の午後の陽射し、躯中から汗をしたたらしている。 
しかし心の中は、外気と反対に冷風が吹き抜ける。

半年まえに比べ、この変りようは何だ?どうしてだ? 

今年初めに東京で会ったK興業の北島の言葉がずっと苦しめている。

「もう何もかも失った!」

 と、ここ数カ月、絶望と悔恨にさいなまれ続けていた。 どこから俺の人生が狂ったんだろうと、繰り返し自問する。

他人から見れば、父母は病んでいる以外は妻や最愛の息子が居り、住む家も結構な邸だ。
 
 一般人なら『最近少しダ-ティなことでマスコミを賑わせているが、そんなの大したことではないか、そのうち人の噂も75日で忘れられる』今まで少し調子に乗ってはしゃぎすぎ、なぜそんなに気にするの?

ところが誠一は幼少の頃から、つい数カ月まえまで挫折知らずの人生であった。 
小さい時から性格明朗で活発、頭脳も良く高校.大学とトップを走りつづけた。 
学生の頃から、社会に出て司法関係の仕事を希望目指したが、恩師(最初の結婚の仲人)から学術を極めるよう奨められ、そのまま研究室に残り学究生活(その間に司法試験も取得し、役所せいと結婚)に入った。 
世の中、複雑系となって来た現在の風潮にうまく乗り、やたら多くなった政府などの諮問や審議委員会.研究会等、公的私的を問わず名を列ねた。 またマスコミの番組には、明るいキャラに明敏な頭脳と説得力.明確で平易な表現が人気を呼び、一躍寵児となって、電波に乗らない日がないほどの売れっ子少壮学者となった。

40才を越えた今まで、およそ挫折を味わったことがない幸運な男であり、本人も十分それを享受していた。 

ただ一つだけ不満があった。 

それは妻との間に子ができなかったことだ。 

誠一はその事で、夫婦の間が剣呑になることは、極めて慎重に避けた。 
それは6年に及ぶ、教え子との不倫と、出来た子供を隠すため、妻のせいに悟られてはならず、おくびにも気取られまいとした。

彼がどこまでもついていたのは、せいが隠し子のあるのを知ってからは、その妻の方から離婚の申し立てと、唐突に自殺したのだ。 
しかもせいの親が、表面上は世間体をつくろう為、病死として処理したことだ。 お陰で誠一にはほとんど傷つくこと無く、それにたま子母子が、晴れて誠一の家族になった。 

誠一はこんな幸運児だった。

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よねぞうの死54〔第七章〕・苦脳2

苦脳2

どうやら誠一家族は、マンションを引き払って両親と同居しているらしい。 

別の部屋に子供の勉強机が見える。 太一郎の妻と誠一や子供は不在らしい。 

せいは暫くたま子の行動心象を観察することにした。 
痩せて見える後姿を見せてたま子は、大きな仏壇に持ってきた花を供え、線香と明りをつけ、手許の数珠を取り両手を合せた。 なにを祈るのか?

1分ほど過ぎたが、たま子はそのままの姿勢を崩さない。 
せいは大急ぎでたま子の脳裏に乗り移った。 どうやら義父母の本復を祈念しているようだ。
最初、別室で寝ている義父の病み衰えた姿が浮かび、治癒を祈る言葉が続く。次ぎに義母華子の姿が念写され、せいは驚いた。

病院の特別室のベッドに病んだ華子が、点滴他の様々な治療機器を装着され眠っている。 
げっそり痩せている。
たった5ヵ月ほど前は、健常時より少し痩せていたが、こんなひどい姿ではなかった。 医薬で押えているが、痛み続けた顔跡が読みとれる。 
どうやら他にガンが転移して、その治療のための入院のようだ。 瞬間 ああこの人もあまり長くはないな と思った。

たま子の頭がまた次に移る。 今度は息子鋭一の姿だ。 
学校の教室で夏期補修授業のようだ。 そのとき校庭の木陰で、誠一らしい男の坐っている映像が、不透明だが写った。

それを最後にたま子の脳裏から、祈念する家族の姿が消え、鉦をたたいて立上がる姿勢が写る。
せいは、誠一の今の現状姿を念写しようと待ったが、たま子の脳裏に何故か、夫について何も係わらなかった。

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よねぞうの死53〔第七章〕・苦脳1

苦脳1

 一方せいは吉田誠一のその後を追った。

せいはこのお盆でもう3回、人間界へ戻ったが、次は4年後の七回忌にしか戻ることができない。 それは先祖.役の小角から言い渡された約束だ。

本来なら次は三回忌に戻る予定であったのが、この盆に早めたのだ。 復讐をより緻密.残忍を求めようと策を練り過ぎたキライが、そのぶん時間がかかった。 
しかし、いかに粘りと辛抱強いせいでも、次の4年は長過ぎる。 やはり早く結果を見たい。 これが今の本音だ。 

せいはやや気持の上であせっていた。 このため残念だが、今回で一応ケリをつけようと、春の彼岸のとき思い定めた。

吉田誠一一家の住んでいた京都.東大路通りに行ったが、住んでいたマンションには別の家族が入居しており、誠一たちは引っ越したらしい。 

急いで親元太一郎たちの住む伏見に転じた。
古いが重厚な吉田邸の印象は、春に来たときから比べ、何となくうらぶれて見えるのが不思議だ。
この前と同様、門を通り越して横道に入り、姿を隠し念を切る。

すぐ太一郎の姿が写る。 
奥の一室で、骨が浮き出て一段と衰えの目立つ姿、夏の麻布団に横臥している。 気息えんえんとした姿だ。 
元義母の華子の姿が見えない。 急いで家の中を見回す。

すると次に、ノ-スリ-ブのワンピ-スを着た27~8才の女性が浮き出た。 せいの後釜に入ったたま子である。 これもやつれて見える。

たま子は、小菊と樒を活けた水の張った花筒を両手に持ち、いま仏間に入ろうとしている。

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よねぞうの死52〔第七章〕・二回目のお盆2

二回目のお盆2

もう過去2回帰っている2人は、要領よく2日でせいの臓器提供を受けた患者めぐりを終えた。 
腎臓を移植した東京の女性が入院しており、意識がなく臨終に近い状態以外、みな健常に生きていた。

3日目の夜、せいはよねぞうに「これから4日間 自宅に帰ってもよい」と解放の託宣を出した。

この春に来たとき見なかった家族にも、今度は会える期待をもって自宅へ急ぐ。 
いま夏休み中で今日はちょうど14日土曜日、子や孫たちの集まりやすい日だ。 

家の前の道路に2台のワンボックスカ-が停まっている。
玄関を入るとわ-んと地鳴りするような人声がし、遠いミチノクの鷹丸一家の声も混じる。 
今日はどうやら全員集合、仏間に集まっているようだ。

いま飾り立てた仏壇を中に記念撮影中で、源三郎が庭に三脚を据えカメラを操作している。
元女房ドノ ヒミコを中に長女晶子.その夫の廉太郎.長男鷹丸.妻ねね.その子供たち冬子.春奈.竜馬、次男の善二郎.妻の淀.その子たち夏子.秋子.吉宗、三男の源三郎、孫たちは前に並ぶ。 
全員で14人、一組の夫婦から月日が経てばなんとこんなに増えるものか。 
居ないのは よねぞうだけだ。

撮影が終って一同騒がしく動き出す。 長女の晶子がまっ先にビ-ルと叫び、みな口々に喋る。
場所を変えた部屋で、たちまち酒盛りや食事が始まったところを見ると、坊さんの来訪はどうやら終った後らしい。 

仏間には誰も居なくなった。 

仏ほっとけらしい。

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よねぞうの死51〔第七章〕・二回目のお盆1

二回目のお盆1

彼岸から10日ほどで阿修羅世界に戻った二人、それからも日常生活はあまり変らない。 
相変わらずよねぞうはぼ-として過ごし、妻のせいは回数は減ったが、月に2~3回は行方を云わず出かけて行く。 
日々が無為に過ぎ、平穏な繰り返しが続いている。

初めて人間界へ行ってから1年、また夏の盆の季節がやって来た。 

せいは、よねぞうに悟られないように注意を払い、元夫の吉田一家に復讐の仕上げに入ろうとしていた。
ある夜、よねぞうに お盆に帰ろう と誘うと案の定、ついこの間帰ったばかりじゃないか と異を唱える。 そこで、
「もう私たちは元の家のご先祖様になったのよ・・今年の冬が一周忌.そして今年は三回忌の前のお盆で、今度の施餓鬼は大切なことぐらい分っているだろうに・・」
と半分小馬鹿にしたような表情を浮かべる。 

最近せいはよねぞうに対して、やや軽んじた言葉の端が目立つようになってきている。 

妻のせいに全て頼り切っているよねぞう、無理もないが とも思い、改めてそうか今年はもう二回目の盆か、わかった わかった、と返事をした。

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よねぞうの死50〔第七章〕・暗転2

暗転2


「その事は少し私も聞いている・・」「うん そうそう・・」
数人が同調する。
 
日頃、権威と威厳.謹厳な風を装うのが習い性になっている連中、たちまちどこにでも居るヤジ馬親父に早変わり。 
隣同士で私語が沸き立つ。

暫くして えへん と声の皮をむいたある学部の男が発言を求め、
「東西を二分するこの権威と伝統ある当学に、いささかでも問題のあると疑惑をもたれている人物を昇格させるのは如何、もう少しよく吟味しては!?」

それを待っていたように事務方の長が、

「それでは遺漏の無いのをよく確認して・・・それまでは先程の昇格は保留とすることでいかが?」
と一同を見回した。 

誠一の恩師以外、皆がいっせいに賛同の合図を送り、学長が重々しく頷き、吉田誠一の教授昇格は保留となった。



教授会のあった翌々日、週間新春が表紙いっぱい大見出しで掲載した。

「K大の売れっ子助教授 口利きの実態と優雅なエロ生活!」

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よねぞうの死49〔第七章〕・暗転1

暗転1

誠一が警視庁の刑事たちに、事情聴取を受けている同じ頃、K大学で午後1時から教授会が開かれていた。

議題は一部人事の人選と、新年度の各学部科の打ち合わせである。 会議は4時過ぎに終了する予定が、少し長引いている。  
いよいよ終りの雰囲気が流れたとき、突然経済学部のある教授が、法学部の吉田誠一に関する問題を持ち出した。

会議の前半、人事の議題で数人の昇格に混じり、法学部.吉田誠一助教授も教授に昇格させる案は、大した異議もなく了承されていた。

ただ何人かが「吉田君の実力は認めるが、やたら政府関係の委員など多く嘱託し、それに最近とみにマスコミ等に露出度が云々・・」と反対ではないが、やつかみと消極的な意見を述べた教授連が2~3名いた。 しかし誠一の恩師で実力者の田守名誉教授の、
「法律のような一般人がなじみにくく、難解で近寄り難い学問と受け止められている法務全般を、分かりやすくポピュラ-にするのも、これから大事な公報の手段だ」の一言で、あっさりと決っていた。

会議がほぼ終了という5時前、突然手が上がった。 
一昨年教授に昇格した北野という50年輩の男だ。 
性は明朗だが雑学にたけ、世事について特に早耳で、この男も誠一に負けないマスコミへの露出度が高いと評判だ。

「これはあくまでも私の不確定情報ですが・・」
と前置きし、政府の研究費補助について、ある大学を会計検査が入って調べているらしいが、
それに吉田助教授が間接的に関与しているらしい・・
これは再度云っておきますが不確かな情報で・・
それに女性関係もからんでいるらしい・・
思わせぶって最後はつぶやくように云った。


約3時間長丁場の会議に、ややうんだ雰囲気がただよっていた場の空気が一変した。


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よねぞうの死47〔第六章〕・いろ仕掛け2

いろ仕掛け2

 中秋萩の季節、今夜は所氏.それに初めて、W大学の事務総長が加わって、Tホテルのある個室で会っている。

W大学が環境にまつわるシステム研究を提唱し、関係各大学研究機関が賛同しているプロジェクトの公的支援予算のことだ。

誠一は今では種々の委員会に首を出していたが、たまたま今日も門外漢の、その環境分析委員会と称する会の、参考人として諮問意見を述べてきた。

今日来年度予算の大枠が決り、その割り振りが決りそうだ と誠一は2人に知らせている。

W大学の2人は大いに喜び、目いっぱい誠一を持ち上げる。
「もちろん予算は私たちに何の権限外もなく、各省庁の所管ですから・・」
と誠一はバリアを張ったが、
いやもうこれで十分 あとは私たちで何とかします と三拝せんばかりの悦びようであった。 
誠一は上京の都度、所氏や他の業者に負担をかけている大半は、これでお返しできたと思った。

 
苦労知らずで過ごし来た今までの順風の人生、脇の甘さに気がついていない。
 

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よねぞうの死46〔第六章〕・いろ仕掛け1

いろ仕掛け1


 ホテルの大型ベッドで、咽が渇き目が覚めた。 
腕時計を見ると朝の8時過ぎだ。 

サイドテ-ブルの水を取ろうとして躯をねじって気がついた。
横に髪の毛の長い女が丸まって寝ているではないか。 
驚いてベッドから立上がり声をかける。

「きみは誰だ?」

肩に手をかけ揺さぶる。 薄目を開け、うるさそうに緩慢な動作で上半身を起こした女は目をこすり乍ら、居丈高に突っ立った誠一を見て逆に驚いて、

「な-にい?・・」

 下着姿のその女性は25才前後、色の白い胸の張った大きな目が印象的だ。

「なぜここに居る?」

誠一の激しい剣幕に驚いてベッドから離れ、 ほんとうに覚えていないの?!と、不思議そうな表情をする。

そのとき誠一の二日酔いの頭は、うす紙のはがれるように記憶が戻り初めた。

「いっしょに車でここに来たの覚えていないの?」
「?・・・!」

誠一は自分の躯と周りを見回す。 女性は下着姿だが、自分はちゃんとホテルの浴衣をまとい、部屋に乱れはない。 女は不審そうな顔つきで、

「あなた ここに帰ってからあたしを二度も抱いたのよ 覚えてないの?・・」

ほんとうに不審そうな表情を崩さない。

「あたし ゆうべのあのお店でいっしょに飲んでたユミよ 思い出してよ・・」

誠一の頭に惑乱が始まった。

 彼は昨夜からのてん末を、ユミという女から聞いて、やっと全て蘇ったのは少し経ってからである。 あんなに我を忘れるほど酔ったのは初めてだ。

それにセックスのこともおぼろげだ。 だがユミは すご-く強くッて二度もお代りしたのよ・・と、あけすけにその時の描写を喋る始末。
 
 その晩ホテルに所勝三が訪ねて来た。
最上階のラウンジバ-に誘い、誠一を見て意味ありげな笑顔で、ごきげんいかがでしたか と云う。
誠一は所氏に、気恥ずかしい表情で昨夜の礼を云った。

「気にいって貰えればいいんですよ もしよろしかったら東京に来ると、時々逢ってやって下さい 本人にも納得させますから・・」

まるでお取り持ちの言いぐさだ。 誠一は曖昧に笑った。

古都京都に住んでいるといっても、物心ついたときからいわゆる水商売の、これらの世界とはずっと縁の薄い生い立ちで過ごして来た。 今は特に学究生活の象牙の塔にこもり、およそ縁無き衆生だと思っていた。 金で解決する、後腐れのないこんな世界ねえ。 この歳になるまで実体験は初めてだ。

東京妻 それもいいか?!

 誠一はそれからは上京するごとユミと同宿し、何度もめくるめくような逢う瀬を楽しんだ。 本名 田中マキコ 群馬県出身だという。 

かかりはいくらこちらが払うと云っても、全て所氏が清算するように仕掛けてあった。 (まあいいか 京都でお返しをすればいいのだから) 誠一の潔癖さは、だんだん慣れ薄れていく。


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