應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死71〔第八章〕・わかれ.迷い

わかれ.迷い

以前、阿修羅行きの判決を受け広場で迷っていた時、人間界へ戻るという10人ほどの集団が、迎えを待っていた同じ石の丸ベンチに行き、腰をかける。

(さあ どうする 人間界に戻って生まれ代り、人生イチからやり直すか それとも前世の続きを営むか 阿修羅でせいとの生活を続けるか)

沈思黙考だ。

三つの選択はどれを採っても一長一短だ。

1つは、生まれ代った人間界。 どんな境遇で生まれ、育つか分らない。ましてや男か女かさえ分らない。 もしおれが女にィ・・・?
生前よく、もしもう一度生まれ変わったら、俺は 私は こんなになりたい、こんな生き方をしてみたい。 誰しも思う願望だ。
自分が今まで生きてきて得た、知識.智恵.常識.経験.情報などをベ-スに、その願望を夢想する人が大半ではないか。

しかしそれは、それまで自分が生きてきて果たせなかった夢、望んでも得られなかった動機と結果などで、起りもしない生まれ変わりという、その願望の裏返しではないか。 いま人間界で生きている人たちはそう思っているだろう。

今よねぞうに、その 起こりもしない 運命現象が起ろうとしているのだ。

よねぞうは迷う。 これはそんなに甘くはないぞ、と。

誰でも、絵に書いたような人生を送る運を持って生を受けるとは限らない。 金持ちの家に生まれ、頭脳明せき.容姿端麗.幸運.健康や経済的、それに家族にも恵まれ、望むことはみんな成就、そんな人間に生れるのは地球上で数人か。 ほとんどは中途ハンパのケッカン商品だ。 その大半がなんとかやりくりして生きている。  
さてオレ、どんな境遇に生まれ育つのやら?


2つ目、これは元の家に戻り、あちらで生きていた時の延長だからハッキリしている。
カオス(渾沌)のような無秩序な一族が、たぶん今もめいめい勝手に生きているはずだ。 そこへある日突然、昏睡から目覚め舞い戻り、芝居の二幕目の続きをやればいい。 しかしこれも先程、もうあまり時間がない、と審判官が言っていたから、そう長いオツトメできないだろう。 
帰れば家族一統が(せっかく静かになった四囲が、またやかましい騒音に悩まされる)と顰蹙を買うだろうが。 そして近所の連中と、ゲ-トボ-ルで日を過ごす程度か。

まあしかしよく考えれば、あと短い刻か知らないが、元の家庭に戻るということは、長い間なじんで身の丈に合い、自分の体臭のしみついた、いつも着ている服のような安堵感。 これはこれで捨て難い。


3つ目、おせいさんの許へ帰るのだ。
去年の冬この広場で、審決の出た二人が初めて会い、同じ船に乗り阿修羅界に行き結婚した。
最初の頃は、濃密な結婚生活でよねぞう、うるおいの無い枯れ葉色の墨絵の景色を除けば、情こまやかで美人の妻に、いたく満足した毎日を送った。
ただ、せいにはよねぞうが生活の中で、どうしても不審な一面を感じ、踏み込めない部分があった。

たしか阿修羅行きの船の中で、前の夫に復讐するため、自殺をしたほど執念深い自分の性格を縷々話していたが・・・。
過去3回帰ったときに、その復讐とやらを実行し、目的を遂げたのか? 聞いてもせいは言葉を濁して答えず、ましてや単純で深読みの出来ないよねぞう、しつこく聞き糺すこともせず、だが一抹の疑惑を抱えたくらしであった。 
この一点を除けば、おおむね満足した再婚生活を送ってきた。

だが最近、せいの言動に変化が感じられ、ときには気味のわるい程感情の起伏が大きく、特にここ10日ほどは故意に冷淡な態度に、よねぞうはやや嫌気がさしている。 ここへ来るときも見送ってくれなかった。 なぜか?
とはいえ、せいと別れることに一抹の寂寥と哀感が混じる。 願わくば、両極を往き来できるような両義性が許されるなら・・・この期に及んでよねぞう、まだ欲の深い考えを持っている。


改めて腕組みし長いため息をつく。

公園の入口で、しばらく停まっていた人間界行きの循環バスが動きだした。 
次のバスが来るまでに決めなければ・・・。

 決断力のないよねぞう、六道の辻で迷っている。

読者諸姉.諸兄 さあ あなたならどうする?
                              完.



長いあいだ、冗漫な駄作におつき合い頂き、誠にありがとうございました。

 慎んで、これからの貴方様の幸多い人生をおくられることを祈念します。

                         平成19年師走


 追記
平成20年正月から、高野応其の今までの書き溜めたものも含め、エッセ-を順次掲載いたします。
テ-マは最初、主に女性たちの生態を分析します。 その結果、非難.ひぼう.怨嗟.偏見だと、時には敵役を覚悟して頑張ります。 まず最初は、

『大阪のおばちゃん』から・・
                         乞う 御期待を。




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よねぞうの死70〔第八章〕・再審

再審

翌日の午後、船は無事六道港に着いた。景色は一転、阿修羅と違いカラ-だ。

相変わらず広場では、派手な服装をした赤鬼や青鬼が、六道のゲ-トに誘導している。 勝手知ったこの広場、若干の懐かしさを覚えた。

『閻魔法王庁.六道の選別所』正面の入口へ行くと、ここも着いたばかりの大勢の亡者が、整然と並んで裁きの呼び出しを待っている。

監視役の鬼に、再審の入口はここか?と聞くと、横の入口を指示された。物言いも前と違って穏やかだ。

大きな球場のような円形になった建物、正面入口から廻ると、なるほど横に別の入口があり、黄色の面を被った鬼の案内人が立っている。

受付で出頭命令書を出し、受付番号を貰い案内されて中に入った。 

中は明るく、豪華な椅子やソフア-が置かれた待合室だ。 見回したが誰もいない。セルフだが飲み物まで用意されている。 一審とエライ違いだ。

コ-ヒ-をお代りした頃、よねぞうの番号が上の表示板に写し出された。


いよいよだ。 緊張が走る。 

法廷に入ると、この前の審決法廷より小さな廷だが、やはり上段に裁判長、一段下がり左側に判事らしいのと書記、右側に欧米人の判事らしい人が坐っている。 
また一段下がって、書類を積み上げ、横のパソコンの画面を見ている倶生神と闇黒童子(エンマ帳係り)、後ろに廷吏2人が立って待ち構えていた。

よねぞうは緊張しながら、廷吏から示された最下段の堅い椅子に、正面向って坐る。
二段目の書記官が、住所.名前を確認したあと、右側の欧米風の審判官が再審の理由を述べた。

難解な専門用語、おまけにたどたどしい日本語なので、要約を以下に述べる。


 要旨は--
「エンマ庁が数年前から合理化のため、手書き書類からOFFライン~ONラインに移行したが、デ-タ-をオフからオンに移行するとき、よねぞうの(よ)を(か)と打ち間違い、かねぞう となり、他の人別帳に入った。 年に一度の見直しをしているが、最近それが判明した」。 

ここで欧米人に代って左側の審判官が、
「よって貴殿を再調査した結果、少年時代、地蔵さまにお小水(小便)をかけたのが人違いと判明した。 閻魔庁としてはイカンに思っている。
今回再審協議の結果、本人の意向次第だが、人間界へ戻すという結論を下した次第。
貴殿が阿修羅に住んで1年余り、その間いろいろの係累が出来たと察するので特別に、どちらに住んでももよい、とのエンマ様のお慈悲あるお計らいを頂いた。 よって貴殿は、人間界に戻ってもよし、今のまま阿修羅界にいてもよし、それだけ住む世界の選択肢が広がったという事じゃ、有り難く拝跪(はいき)せよ」

 
「なお 人間界へ戻るについては原則は、生まれ代り、一から生育されるが、これもまたエンマ様の特別の御配慮で、前の続きを望むならそうしてやってもよい。 但しその場合は人間界の寿命は短いぞよ、以上」。


この法廷も、どこかの国の官僚によく似た御託宣だと、よねぞうは思った。 

どだいミスったのはエンマ庁で、その為2年近くあの墨絵の世界で、気の強い妻と暮すことになり、それをたった一言、イカンの言葉だけで片付け、あまつさえ、選択肢が広がったから這いつくばって有り難たがれだと、(クソッ)。

しかし気の弱いよねぞう、言い返しもならず、約10分程の再審法廷が終り、両手の甲に三通りの方向性のスタンプを押され、外に放り出された。




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よねぞうの死69〔第八章〕・呼び出し2

呼び出し2


出頭命令が着いてから8日が経ち、やっとよねぞうは六道選別の閻魔庁に行くため自宅を出た。 

命令書が届いてすぐ、よねぞうはせいに同道を頼んだが、なぜかせいは頑なに一緒に行かないと云う。 だからなんとなく頼りない独り旅だ。

せいはよねぞうとの結末を予測していた。 たぶん別の世界に行くことを・・。
 そして夫がこの修羅道に引き返して来なくても、素直にうけいれようと。
だから自分の推理を一言も漏らさず、思い残すことのない一週間にしたかった。

人間界に帰った過ぎし夏の日、垣間見た吉田たま子の言動がなければ、執念深いせいは、今でも決してよねぞうを離さなかっただろう。

あれからせいに、日々大きな心の変化をもたらしたらしい。 自分でも不思議なほど清澄な気持で、事物を判断するようになって来ている。

自分は自栽までして復讐を誓った。 しかし考えてみれば、最初人間界に戻って復讐のワナを仕掛けたのは、何の事はない、皮肉にも自分の心を裏返しにしてしまった。

 いかに悪意.凶の心をもってしても敵まで愛してしまう、たま子のようなとほうもない愛、仏の慈悲の心で包み込まれると、このような気持ちにさせてしまうのか! 故意に自分の心を偽ってはいけない。 人の性は善だ。

ここ2ヵ月ほどで、今までの執念.嫉妬.煩悩.瞋恚(しんい)など、まだ少し心に残滓はあるが、日が経つにつれ薄れて行くのが分る。
 
そしてよねぞうに対する、今までの愛が透明.純粋な愛といえただろうか? よねぞうを解放してやろう。 また二人が会う事を運命ずけられておれば、そのときは本当の純愛で応えよう。

この一週間、家の中に二人で閉じこもり、濃密な時間を過ごし、別れの儀式が済んだ。 
未練がないと云えばウソになるが、これから独りで生きて行こう。

ドア-を出て行く、よねぞうの後ろ姿を目に焼きつけて、

心の中で 「さようなら」 とつぶやいた。


よねぞうは阿修羅港から独りで、六道選別所行の船に乗った。 
一昨年の2月にこちらに来てから船に用は無く、乗る機会も無かった。 
せいと一緒に来た時は、豪華な特別室であったが、いまは二等船室で窓からかろうじて外が見える。 この等級の乗船客は数人で、静かな出港であった。

よねぞうは後部の窓際に腰を掛け、思いにふけっている。
この一週間 一緒に行こう、と幾ら云っても嫌だと云い、見送りに外にも出なかった。 今まで一緒に過ごしてきた年月、せいの性格から推して不思議としか言いようが無い。

エンマ庁からの呼び出しも不審だが、それを知ってからのせいの素振りは合点がいかない。 せめてこの港まで見送ってくれてもエエやないか! おかしい? 船は急流に乗って下って行く。


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よねぞうの死68〔第八章〕・呼び出し1

呼び出し1

いませいは外出中、留守番をしているよねぞう、ドア-の郵便受けの音で取り出してみると、よねぞう宛の封書。 

差出人はエンマ法王庁とある。

急いで封を切ると、出頭命令書だ。 

理由は「再審議の要あり、本書着次第1ヵ月以内に出頭せよ」とある。

気の小さいよねぞう、出頭・・?
再審議する?
なぜ・・? 
暫くぼ-ぜんとしていたが、せいが帰れば相談しなければと思い、いずれにしても急いで行かなければ。 たぶんせいも一緒に行くと云うだろう、しかし再審理由が分らない。 せいが帰って聞けば分るだろう 単純なよねぞうはそう思った。


午後遅く妻のせいが帰って来たので、早速閻魔庁からの出頭命令書を見せた。
 
とたん、その文字を見るやせいの顔色が変った。 

よねぞうはいぶかしげに妻の顔を眺める。 む?利発なせいならエンマ庁の意図が分るのか?
「なんでやろ?」と遠慮がちに聞く。 せいはそれに返事をせず、あらぬ一点を見つめ考え込んでいる。 

 単純なよねぞうは深読みが出来ないが、せいは瞬時に読み解いた。
せいが思うに、よねぞうはもともと最初から阿修羅へ来るような人間では無いのを、六道選別所で会った時から気づいていた。 だからせいは、群がる亡者の中から選別し、自分と正反対の性格をもつ、この世界に紛れ込んだようなよねぞうを口説いて結婚した。 

何故なら同じ性格、特に怨念.執着.嫉妬心などを持つ者同士であれば、絶対長続きしないだろう。 そうすれば時空を超えた元の人間界へ帰れなくなる怖れがある。 時空の条件はこちらで結婚した者同士しか渡れないのだから。

たぶんエンマ庁は今頃になって、よねぞうの行く道のミスに気づいたのだろう! 
結婚してからずっと怖れていたことが、現実になりつつある予感に包まれていた。 

今までただ、使い勝手のよいと思っていた男との別れが・・・。


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よねぞうの死67〔第八章〕・マリ-の過去2

マリ-の過去2


一方せいは、今日よねぞうの帰りが、いつになく遅いのを気にかけていらついていた。 いままでは遅くとも4時ごろには帰っていたのが、今日は午後5時を過ぎても帰らない。 何かあったか疑心暗疑がつのる。

ようやく6時前ドアの開閉がした時、せいはほっとすると共に、怒りがこみ上げてきた。

居間に入って外出着を脱ぐ夫に向って、遅かったわね と声に非難の響きを乗せてなじる。 ところがよねぞうは晴々と、憑き物が落ちたような声音で、

「遅い?そうかな 少しぐらいエエやないか」

まるで気にしていない。 

せいは、いつもと少し違うよねぞうの態度に違和感を感じたが、外でなにかあったのか?と聞いた。 
べつにィ と否定し、そしらぬ顔で湯殿のほうに行った。

翌日の朝、よねぞうは居間のソフア-で横になり、薄墨いろの外を眺めながら、昨日のマリ-の言葉や、夜のせいとの会話を反芻している。
昨夜二人で夕食を終えたあと、せいがこの居間に坐り、改まってよねぞうを問いつめた。

「まえにわたしが聞いた時、公園に行かなかったとウソを云ったでしょ・・」から始まり、公園の中の景色や設備機能.たたずまいから今まで、誰に会ってどんな話しをしたのか、微細で執拗に問いただす。 せいが常人でなく透視力や念力で、察知できる能力のあるのに、分らないのか?

最初よねぞうは、当り障りなく返事をしていたが、、俺はなにも隠すような秘密を持っている訳でなし、と少し腹が立ってきた。

それどころか、先程マリ-の数奇な来し方を聞き、この世界に来て、これほど感動を受けたのは初めてだ。

これに比べ、いま目の前で俺を問いつめている妻、これと比較してマリ-のなんと純粋無垢な夫への愛情か、と改めて感心する。 よねぞうはだんだん腹が立って来て、スペイン女性マリ-と会っていた事を告げた。

 外国女性と聞いただけで、せいは柳眉を逆立てる。

そこで公園で聞いて、感動と同情心を揺すぶられた、その覚めやらぬ気持をせいにぶつけた。

マリ-の生まれ育った特殊なバスク地方、その置かれた波瀾の半生と、悲劇的な事故死、またいつか、この阿修羅の世界にやってくるだろう愛する夫を、これから待ち続けるらしい・・と。 噛んで含めるように感動を込めて語った。

すると黙って聞いていた妻、嫉妬.猜疑.執念深いあのせいが、なんと目いっぱい泪をため、うつむいたではないか。

この夏、浮世に帰る前のせいなら、このような人間味の情感を見せることは、たぶん無かったろうにと思い、逆に戸惑うよねぞうであった。


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よねぞうの死66〔第八章〕・マリ-の過去1

マリ-の過去1


「わたしはスペインのバスク人なの」


「バスクといっても関心のうすい人は、それ何処?と思うでしょうが、有名なピカソのゲルニカと聞けば分ってもらえるかも・・」

 それからマリ-が自分の故郷を語った。


 バスク地方は、スペインとフランスの国境に横たわる、ピレネ-山脈の西部に当り、前方にビスケ-湾が広がり、今はスペイン自治領になっている。
この地方は独特の言語と文化を持ち、昔から独立志向が強く、常に激しい独立運動を繰り返して来た。

わたしはバスク県のビルバオという町の出身だが、それより北東約20Kmにゲルニカの町がある。 その町に育った6つ上の従兄弟と20才のとき結婚した。

この町の近代史で有名なのは、1937年フランコ政権がドイツ.ナチスと組み、史上初の無差別爆撃を行い、ゲルニカ住民7千人のうち2千人以上を虐殺した。 パリに居たピカソが激怒して、あの代表的な作品を生んだ。

世界戦争後もフランコ政権が続き弾圧が厳しい中、夫は分離独立運動の義勇軍ETA(祖国バスクと自由)に参加した。

結婚して10年目、フランコ政権の弾圧がますます厳しくなり、夫はわたしを手許に置くと、どんな危険が迫るとも分らないのと、また自身も自由に活動できないとの理由で、ツテを頼って私ひとりアメリカに渡らせた。 看護士の資格を持つわたしは泣く泣く夫と別れ、故郷を離れた。

数年ボストン郊外で病院に勤めたが、知人もなく言葉も不自由で、どうにも馴染めなくて困っていた。 そのとき病院で、アメリカ人と結婚した日本人、山田華子という患者と知り合った。

山田さんは東京のある大学の講師をしており、夫のヘンリ-氏も民族学者で、わたしの古郷のこともよく知っていた。

1年ほどして、東京へ帰る夫妻から誘われ一緒に日本へ来た。 そしてこの夫妻の紹介で、病院の仕事に就き友達もでき、落ち着いた生活を送っていた。

一昨年の夏、2泊3日で病院仲間といっしょに、那須高原へ遊びに行った帰り、私たちの乗ったマイクロバスとトラックが正面衝突、死傷者7人の大惨事故となった。

事故直後、まだわたしは生きていたが内臓破裂で出血、残念ながら血液型がバスク人の大半が持つRHマイナス型(逆に世界の85%がプラス型)で、運び込まれた医院にその型の血液がなく、間に合わずわたしは出血多量で死亡した。

皮肉にもわたしは病院関係者なのに・・・ あっという間の出来ごと、未だに死の実感が湧かない。 人間界にいるスペイン在の愛する夫は、わたしの死んだのも未だ知らないのでは?

そしてこの阿修羅に来たのも、夫のバスク地方独立の執念を持つ、その妻というだけで送り込まれたようだ。 釈然としないので毎日ここに来て、平常心を保っている。

よねぞうこの話を聞くや、思わず両膝に揃えて置いていた、マリ-の両手を掴み励ました。 

愛する夫や遠い祖国を離れさまよい、つかの間の安住の日本の土地で、薄幸の命を散らした女性に対する、感動と無垢な同情が自然に体を動かした動作だ。

マリ-はこうも付け加えた。

「わたしの性格では、この阿修羅界はエンマ庁のミス配属だが、夫は生涯かけた独立の義心で固まっており、ここに住んでいると死んだときは、間違い無くここにやって来る。 それまで辛抱しながら待ち続ける・・・」と。 


 なんと健気な・・。


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よねぞうの死65〔第八章〕・せいの嫉妬2

せいの嫉妬2


よねぞうは公園の中の、この前に会ったベンチでマリ-と再会。 

今日も晴れて爽やかな日和だ。

マリ-の今日の装いは黒いス-ツ姿に、胸に小さな白いバラを挿している。 落ち着いて上品な印象を与える。

この前のいきさつもあるので、よねぞうはあまり私生活に立ち入らないよう気をつけ、当たり障りのないよもやま話しする。 

それでもよねぞうは愉快な気持ちになり声を立てて笑う。 つられてマリ-も歯並びのよい口元を綻ばせる。 約2時間あまり、二人は楽しい会話を交し、また次の日の約束をして別れた。
 
よねぞうは散歩からむっつりした顔で帰って来た。 
心を読まれない為の用心だが、せいは何も云わない。
せいが、この前聞いたカラ-公園の所在さえ知らない振りをしたよねぞうを、うそつき呼ばわりするのは易しいが、公園の中で何をしていたのか?

好色なよねぞうのこと、たぶん早速気に入った女性と交際でも始めたのだろう、あのいそいそと歩いて行った後姿を見れば分る。

せいはもっと確たる証拠か現場を押え、ぐ-のねも言わせないことにしよう。

数日して、よねぞうはまた散歩に出ると云う。 せいは今度も気安く許した。

午後の公園の中は暖かい。 この前と同じ場所のベンチに二人は坐り、よねぞうが世間話を始めようとした時、マリ-はやや緊張したような顔で、ためらい勝ちに、私の過去を聞いてくれるか、と云う。 
よねぞうは頷く。

「わたしはスペインのバスク人なの」
 

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よねぞうの死64〔第八章〕・せいの嫉妬1

せいの嫉妬1


よねぞうは不安を胸にマンションに帰ってきたが、せいは相変わらず、自分の部屋にこもったまま出てこない。 よねぞうはこれ幸いと、居間に入って応接の長椅子に寝転んだ。 
いま会ってきたマリ-という女性との会話を反芻する。 
自然と頬がゆるむ。

約1時間ほどしてせいが姿を現し、何処へ行ってきた? と聞く。 
帰りの道すがら考えていた答をよどみなく喋る。

「この前の大通りを真直ぐ歩いて、橋を渡ってそのまま行ったが、同じような家並ばっかりで飽いてきたので、途中のベンチで休んで帰ってきた」

帰るとたぶん聞かれると想定して、帰り道、川を越えて実際の風景を眼に入れてきたのだ。

「ふう-ん 橋の向う側にたしか看板架かっていたでしょ」

「うん なんかカラ-公園どうこう書いてあったけど、興味ないから終いまで読まなんだ」

ふう-ん? 少し疑りぶかそうな眼をしたがそれ以上詮索せず、せいは夕食をつくるため居間を出ていった。

よねぞうはほっとして額の汗をぬぐう。 うまくいった。



3日後の午後、再びよねぞうはせいの許しを得て外出した。 今日はマリ-と公園で会う約束の日だ。 

急いでエレベ-タ-で降り、足早で大通りに向う。 
それをせいは自分の部屋の窓から眺め、なぜ急ぎ足なんだろう?と疑問に思った。
(あの歩き方は目的をもった脚力だ) 大急ぎで後を追う。 
よねぞうは脇目も振らず公園に直行、ゲ-トをくぐる。
 
その後をつけたせいは公園の入口で、しばしためらったが意を決して、思いきってゲ-トに入ろうとした、とたん音を立てて観音とびらが閉った。
係員が気の毒そうな表情をする。

やはり駄目か!とつぶやいた。 
せいはこの世界へ来てすぐ、一度来て試したことがあり、今と同じように入園を拒否された。


せいのような怨念の深い一級人は、やはり入園出来ないらしい。

(いいわ、帰ってきたらよねぞうを問いつめてやろう)と引き返した。


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よねぞうの死63〔第八章〕・語らい

語らい


 薄暗い森の中に入る。
 
木もれ陽の当る、落ち葉の積った小道を抜けると再び陽光が降り注ぐ広場に出る。
そこには散策している人々、それに談笑する声が賑やかだ。 

 広場の中にも小川が流れ、その手前に数本の繁った樹の下に休憩用のベンチが二つ。 その一つに腰掛けた女性らしい後姿が見える。 
よねぞうは晴々した気分で芝生を歩き、そのベンチに近寄った。 草を踏むかすかな足音を感じたのか、ベンチの女性が首を回してよねぞうを見た。

40才前後の彫りの深い欧米人だ。 美人だ。

ベンチの前に立ったよねぞうは、とびっきり愛想のよい笑顔を向けて、
「・・モ-ニン・・」
これに美人は、微笑みながら「こんにちは」と、はっきり日本語で返した。

「日本語だいじょうぶですか?」 

「ほとんど判ります」

 流暢な日本語が返ってきた。

よねぞうは生前仕事がら、欧米に何度も研修やビジネスに往ったにも係わらず、外国語はほとんど話せない。 この女性、日本語が判ると聞いて安心する。
なんとなくこの女性のかもす雰囲気は、よねぞうに安心感を与える。
隣に坐っていいか と聞くと「どうぞ」と笑顔で答え少し腰をひいた。
縦に細い、黒のストライプの入った白のワンピ-スに、黒の巾の広いバンドが清潔感を与える。 

隣に腰を下ろしたよねぞうは目を細め、両の指をからませて腕を伸し、思いっきり背を反らす。(今おせいさんは居ないのだ。 自由だ)。

それを見て女性は微笑みながら、 いいお天気ですね と云う。 それからとりとめの無い話を交わし、次第に暖かい打ち解けた気分になっていった。

「日本語が堪能だが、日本で長く住んでおられたの?」

 と聞くと、長く濃いまつげを細め、

「わたしはマリ-といい、生前日本に居て、昨年まで東京のある病院で看護師をしていました」

女性のほうから先に名乗らせてしまった。

「失礼、わたしは日本から来た よねぞうという者ですが、あなたは何年まえ東京に来られた?」 

6年前といい、独りで日本に? の問いに、そうだ と答える。 
続いて お国は何処? 東洋のこの日本に何故? の問いに、女性は正面の小川のせせらぎに眼を向けたまま、憂いの横顔を見せて黙ってしまった。 なにか人に話せない、深い訳がありそうだ。
よねぞうは矢つぎ早の問いかけを恥じて、見ず知らずの人にいろいろ問いかけ申し訳ない、と謝った。

マリ-という女性は、よねぞうに顔を向け、寂しそうな顔でうなずく。

気分を変えるように、今日初めてこの公園に来たがこんな素晴らしい処があるのは知らなかった と云えばマリ-は、私はこの阿修羅に来てすぐここを知り それからはほとんど毎日ここにやって来ている と云う。
厚かましいと思ったが、そこはよねぞう、

「それではここに来れば、いつでも貴女に会えますね」

「ええ わたしでよかったらどうぞ」

明るい笑顔で答えてくれる。 よねぞうは心の中でいたく悦んだ。

毎日灰色の世界、それに加えて最近、とみにモノを云わなくなった陰気なおせいさん、時々息のつまるような時がある。 少しでも、離れていられる時間ができればハッピ-だ。 
つい最近までそのおせいさんから、ひっついて離れたくなかったよねぞう。 おれも変った!?

ところが気の小さいよねぞう、ここでハタと心配性が頭をもたげる。
あの千里眼のおせい、よねぞうの一挙手一頭足どころか、心の中まで透視する術を心得ている人が果して、今日の一刻、他の女性との語らいでも知ったらどんなバツを受けるか、時々見せるあの夜叉顔が頭に浮かんだ。

しかしまた、こんな異国の美人を前に、妻のせいを恐れてなるか、と心では震えながら覚悟を決め、次に会う約束を交してベンチを離れた。

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よねぞうの死62〔第八章〕・自由2

自由2

突然、人間界に帰ったような、極彩色の世界か?と錯覚する程、強烈な視覚が目に飛び込んできた。 
今までのモノクロの世界が、総天然色に変ったのだ。
暖かい陽の降り注ぐまぶしい太陽、きれいな水が流れる小川に、ハヤが泳いでいる。 

川には飛び石がありそれを渡る。 前に草地が広がり鳥のさえずりが聞こえる。 

なんと単色の世界と、自然の色でこうも気持ちが違うのか。

よねぞうは心底うれしく飛び跳ねる気持ちになり、少年のように草地を駈けた。 草地を抜けると、白樺に似た樹木の並木が続き、その奥に林や常緑樹の森も見える。 散歩道には草花が咲き乱れ、その道を三々五々人が散策している。
 
よねぞうは大いに自由を感じた。 

いままで物事をあまり深く考えず、おせいさんの云うとうりの生活をして来た。 それに慣され、漂い乍らの毎日だった。 
ただの自由気ままな散歩だけで、こんなに開放感を与えるのか。


そして脚のおもむくまま、周りの景色をむさぼり見ながら歩き続けた。
 

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よねぞうの死61〔第八章〕・自由1

いよいよ最終章でございます。

自由1

よねぞうとせいは今度も無事、阿修羅に帰って来た。
約10日あまりの浮世の旅であった。

よねぞうは家に落ち着いて間もなく、せいの気質が変ったことに気がついた。
まず自分が外出する時、以前ならよねぞうが勝手に出ていかないよう、外から二重にカギを掛けていたのが、掛けなくなった。
以前は月数回、会合と云って外出していたのが、今は滅多に出なくなり、自分専用の部屋で終日閉じこもっている。 そして、よねぞうにあれほど細やかな情愛と気配りをしていたのが、やや放埒になった。 それに夜の営みも、以前のような濃密さが無くなり淡白になった、等々。

それはどうやらこの夏の盆の旅に、解がありそうだ。 よねぞうはほっとする反面、やや物足りない気がする日々だ。


数日してよねぞうはせいに、いちど独りで外出してみたい と云った。
こちらに来て2年近くになるが、外に出るときはいつもせいと一緒で、いままで独りで出歩くことは無かった。 そう云った時、せいは何かに気を取られていたのか、暫くして気がつき、それでも簡単に いいわ と云った。
  
翌朝、よねぞうはマンションのエレベ-タ-は使わず、久しぶりに阿修羅道の大地を味わうような気で階段を降りた。 そして左へ曲り大通りへ出た。

さすがに自転車や自動車類は走っていない。 行く宛は無いが、とりあえず足と気のおもむくままに歩こうと思った。 
独りで行動するのは昨年冬、船に乗ってこの阿修羅道に来て以来だ。 外は相変わらずモノクロ-ムで単色の世界だ。 薄墨色の景色は夕暮れのようで、それでも家並は日本の都会とあまり変らない。 

東西南北の感覚がなく分らないので、取りあえず大通りを歩く。 通りはあんがい大勢の人が歩いているが物音がなく、味気ない。
約20分ほど歩いたとき、巾40mほどの小さな川に出た。 木の橋が架かっている。

 対岸に何かの看板が目についた。

橋を渡って看板の文字を見る(6カ国語の並記)。 
その日本文字には、
「この川の上流2Kmにカラ-公園あり、但し選別所でチエックの要あり」と注意書き。 よねぞうは大いに興をそそられ急いだ。 
カラ-? 
色付き公園?

 目的地に着いた。映画館の入口のような開所があり、入園心得書と書いた看板が立っている。 それを見て驚いた。 要旨以下のように書いてある。
 
公園の特長=この公園の入口を入ると、阿修羅のモノクロの世界から人間界のように色のついた世界に変る。 但し入園できるのは、チェックゲ-トをくぐる時、ブザ-の鳴る者のみである。

入園できる者=阿修羅世界に慣れない者(すなわち闘争.ねたみ.さい疑心.嫉妬.執着心等の薄い者、まだそれらの修業の足りない者)のみ。

そしてこの公園の造った動機や目的が書いてある。

(1) 最近阿修羅道に来たが、この世界に慣れない者が増加し、特に単色の世界がなじみにくく鬱の患者が増えた。

(2) その者達や、その可能性のある者をケアする為、人間界の景色を取り入れた公園を造った。

(3) 入場者は入口で資格をチェックする。・・・とある。
 
まあとにかく中に入って見ることだ。 果たして入れる資格があるのか、試すのも一興だ。

入口は欧米系も含め5~6人の係員がいる。 もう50~60人程が列をつくっている。 人種は雑多だ。 よねぞうもその後に並んだ。

チエックは簡単で、空港のゲ-トのような枠を通るとき、ブザ-が鳴るかどうかで選別している。 リピ-タ-が多いのかゲ-トをくぐる連中、べつに緊張した雰囲気ではなく、ブザ-と共に気軽に中へ消えて行く。

初めてのよねぞう、さすがに緊張したが幸いブザ-が鳴った。 

その時心の中で(やはり俺は修羅道には迷いこんだ人間だ)と実感する。

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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