應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死13〔第二章〕・四十九日(幽冥界.黄泉)6

四十九日(幽冥界.黄泉)6


「さァ お客さん達、こちらの門からは同じ川渡りでも、船はデラックスで全席指定、ファストクラスの席もあるよ。水しぶきのある、ナイアガラの滝より大きい峡谷も見られ絶景だよ。一度しか渡れない旅を満喫しておいで・・・」

茶髪で、生前どこにでも転がっていたような若いおニイちゃん、たぶん大道野師か暴走族の亡者が、アルバイトで使われているのか? 門の前にその口上を聞く亡者たちが蝟集している。

三途渡りの切符売り場には、料金が表示され、日本以外各国の通貨も併記。 なんと阿修羅行きは直行でも日本円で10万円だ。 これは大変。ここでどれくらい働いたら貯まるのか、ショックの連続だ。

とにかく何処かでひと休みして、思案しようと辺りを見回した。
右手に石の丸テーブルような椅子に、腰掛けている10人ほどの集団がいる。そばへ寄って空いた場所に腰を降ろす。 隣の人に、あなた方も川を渡るのか、と聞くと意外な答えが返ってきた。

「いま、それぞれの四道から許されて帰ってきた。これから人間界へ戻るので、迎えのバスを待っている」

飛び上がるほど驚く。 改めてこの集団を見ると、覇気こそ無いが穏やかな人間らしい落着いた顏つきだ。 これから送られる生気の失せた亡者たちと、エラい違いだ。

坐っている中で、黄土色のシャツにフラノのジャケットを着た60才台の男性が、かいつまんで説明してくれた。
 
六道のうち、地獄.餓鬼.畜生.修羅.の四道に落とされた者でも、完全無限地獄ではない。 平たく言えば、前世の人間界で罪を犯して無期懲役になっても、牢獄で真面目に、模範囚として何年かオツトメすれば、改悛の情ありと仮釈放になるだろう。 こちらでもそういう仕組みになっている と云う。
いわゆる 輪廻転生 かと聞くと、
「それは四道の連中には適用されず、無限に続く。しかしたまたま五十六億七千万年の後、慈氏.すなわち彌勒さまの将来仏が現れたら、救ってもらえるものも居るらしいが。 まあ我々はその口ではなく、真面目に勤め、監視長やほかの鬼たちにも可愛がられ、運がよかった」という。
ああ そういうシステムと機会もあるんだ、と少し心が開いた。 が後ろ向きになって俯いていた人がため息まじりに、おれは帰りたくない と云う。
「ん?」
すると、6人が 俺も おれも と同調する。 
最初口を切った中年の男が、わたしの方に向き直り、帰りたくない理由を、 「いろいろこの世界の情報を総合すると・・」と前置きし次のように話した。

まず最近の地獄の有り様。 
現世の娑婆では小さい時から、少しでも悪いことをすると地獄に落ちると戒められ、善行を積むよう躾と規律づけられて来たが。 ところが最近の地獄は様変わり。

人間界の戦後しばらくは多死多産。 お陰でこの世に来る亡者が溢れかえり、ハコもの造りに励んで好景気が続いた。 またエンマ大王以下、鬼の幹部や官僚が予算の大盤振るまい、それに連れて贈収賄汚職が蔓延した。 

しかし人間の世が落着くに従って所得が上がり、医学の進歩や保健衛生が行き届き平均余命が延び、当然死ぬべき人も生体肝移植等で延命、送られてくる亡者が少なくなって歳入がガタ減り、これが第一原因。 
そこですぐ予算を削り、ムダを省く行政改革をやればよいのに、どうせ世界に70億人もいる人間、いつか必ず死人が増えると漫然と期待し、赤字債券の大量発行予算でしのいで来た。 これが様々な所に変化を齎した。

例えば灼熱.火炎地獄、リニュアルする予算がなく、大量消化時代の昔のままの、広い池を使っているから熱効率が悪く、おまけにエネルギーの高騰や予算不足で、温度が50~60度以上あがらない、丁度よい湯加減の温泉のよう。
遅ればせ乍ら、かのエン魔大王が経済学者や、識者と称する得体の分らん連中を集めて、ヤッキになって対策を求めているがさっぱり。
根本的な対策を取らず、変な官僚などが、整合性のない部分的な規制緩和を打ち出している。 その結果、
いま居る亡者の居心地をよくする為とか、弱者救済だ、などと称し、血の池地獄などは血の色に見せかけ、ワイン風呂にして亡者を喜ばせたり、飢餓地獄では飢餓どころか、今ではダイエット食材を工夫し、幾ら食っても肥え太らず、口いやしい女亡者や中年者にはエラい人気と云う。 

極めつきは、最初に帰りたくないとグズった男の居た畜生地獄。 近親相姦や、共に相喰む地獄であったが、身体障害者の多発.出生率の低下.医療費の増大から禁止された。 それだけではなく優生学上、血の入れ替えが必要という理由で、欧米人を多数移民させ、ある盛り場ではカネさへ払えば夜毎、酒池肉林が許されている、という。
この男はそのドームの管理を任され、さんざんいい目をしてきたらしい。 そう聞くと、帰りたくないのも分らんではない。 また隣の人は、
「これから人間に戻っても、また最初から小学校ー大学、セコイ社会のイジメにあい、ブスで気の強いだけが取り柄の、今どきのニョウボや病気とも闘い、出来た子もアホで苦労する。 それに最近来た亡者から聞くと、年金もロクに貰えない世になりつつある、と聞く。 そんな世界へ戻るのはイヤだ」
と宣う。 今まで居た前世をボロクソに云う。 
そのとおりなので黙っていると、周りの者も そうだそうだと相づちを打つ。 それに反し、先入観をもっていた地獄は、聞けば聞くほど人間界より逆にエエとこらしい。 少し希望が湧いてきた。

私が、これから行く阿修羅の世界を聞いてみるが、この集団には一人も、あそこからの帰り者はいないという。
「あそこは争い好き、嫉妬や執念深い陰気ものが行くとこで、もともと規制が緩やかで改革が後回しになっていて、ほかに比べて面白くないトコらしい・・それでも昔に比べりゃ甘くなったらしいよ」
 少し気落ちしたが、立上がった私に皆がいっせいに、がんばれ の励まし。 

 さてと、歩き出したが、やはり渡し賃だ。 地獄の沙汰も金次第 とはよく云ったものだ。




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