應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死15〔第二章〕・四十九日(幽冥界.黄泉)8

四十九日(幽冥界.黄泉)8

三日経った。 

船は今しがた三途大滝を遊覧し、これから中ノ島に向っている と船内放送があった。 船は穏やかにカーブを切って進んでいる。

よねぞうはベッドに寝っ転がって、漫然と窓の外を眺めている。 おせいさんは今鏡の前で化粧中だ。 こんな時間が無限に続けばエエのにと、よねぞうは考えている。 その反面、おれの人生で こんな温和な日を過ごしたこと少なかった。 そのうち、とんでもない反転が来るのではないか、といつもの心配性が頭をもたげた。

いつの間に来たのか、おせいさんが私のベッドに腰を掛けて、こちらの顔を見つめている。 念入りな化粧のあと、息をのむ程きれいに見える。 
思わず起き上がろうとすると、そのままと手で制し、切羽詰まったような表情で、ぜひ話を聞いてほしいと云う。 寝たままという訳にもいかないので、ベッドに坐った。

いつか判るから と前置きし話し始めた。 話というのはこうだ。


「わたしは京都の、むかしの公卿の筋を引く家に生まれて、同じような血筋の出生の人と、15年前に結婚した。 5つ上の夫は学者で穏やかな人柄。どちらも取り立てて不満のない生活が続いたが、子供のないのが唯一空虚であった。

ところが昨年の葵祭に、夫が30才ほどの女性と、夫に似た5才ぐらいの男の子を連れて見物しているのを、偶然見つけた。 

遅く帰って来た夫を問いつめると、相手はなんと7年前から関係を持っていた それも大学で自分の教え子だった女性。 もっと驚いたのは、夫の両親は子までいるのを知っているという。 堰を切ったように夫は白状し、挙げ句、『おまえに子供ができないからだ』と、非が私にあるように開き直った。

それからはわたしの地獄の毎日が続いた。

嫉妬.懊悩.口惜しさで心の中は夜叉.羅殺になっていった。 鬱にかかり実家に戻っていたが、今年になって仲人から、夫が離婚の意向と伝えてきた。 その前後、いろんな事がしがらみ、私は意地でも離婚しない、と言い張ったけど、世間体を気にする両親の手前もあり、表面は大人しくしていた。 

「いよいよ最後の調停の日の朝 首を括って自殺したの」
「このまえ選別所のエンマさまが『おまえは嫉妬の念深く、執着心が人一倍強い、激しいねたみ 怒り 猜忌の強いものが行く阿修羅道、まさにおまえにピッタリじゃ』って言われたけどその通りなの・・・」
「あたしは確かに何ごとにも執念深い性分で、小さいときから半パじゃないわ、だから、これからあの人をそのままにして置かない。 その為、わざと当てつけに死んでやったの。

必ず化けて出てやるわ・・なにしろ阿修羅道は、あたしにピッタリの世界なの」
文字色


聞いて震い上がった。 あのきれいだった顔 眼が釣り上がっている。
「だからこれから あなた協力してね ぜったいよ あたしは執念と嫉妬はすごいんだから・・」

(げッ ちょっ ちょっと待ってくれ ・・・) 一息入れ、

「どだい自殺なんかせずそのまま頑張ったらよかったのに。 死んで化けて出てやる 言うても、どないして元の世に迷い出られるんや?」

「それが うまくやる方法があるの。 まァ秘中の秘だから、いくらあなたでも今、打ち明けるわけにはいかないわ」

よねぞうに近づけた顔、陰を含んだ笑いがすごい。

(こりゃエライことになった 女のリンキは始末が悪い、幾つ何才になっても。
おれの母親70才越えてもモノスゴかったもんな。 この女は正気を逸しているわい。 えらい女と えらい仲になったものだ。 
これから何年、こんな執念深い女に振り回されて生きて行くのか。 覆水盆に返らずか! つい先程、こんな時間が無限に続けば・・とニヤついていたのが、アッという間に反転したではないか。 
だいたい女房ドノが、ケチッて棺桶にゼニをしっかり入れてくれんかったからや、 助けてくれエー・・)。

またニッと笑ったおせいさんの顔が夜叉になった。

無限地獄は続く・・・。
                            

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