應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

よねぞうの死16〔第三章〕・快楽(けらく)の日々1

快楽(けらく)の日々1

 三途(さんず)の川を渡り終えて半月が過ぎた。

おせいさんは翌日から、不動産屋へ足を運び家探しを始めた。 それもマンションだ。 この世も生活機能は生前とほとんど変らない仕組みらしい。

このまえ確かおせいさん、生前の京都では庭付きの家で過ごし、一度もマンション住いの経験が無い と云っていたが・・・だからその時怪訝な気がし、なぜマンションか?と聞きたかったが、なにさま一文なしで、全ておせいさんに頼らない訳にはいかない境遇の身、黙ってついて行くしか能がない。 

そして築10年の中古で、30階建ての高層マンションの、20階の3DK一室を即金で買った。 こちらの通貨は、なんと江戸時代の文・分・両・の金本位制の世界だ。 おせいさんは持って来た紙幣を交換し、それに後で判ったが、相当の金の延べ棒を体に巻いて持ち込んだようだ。 今も幾ら持っているのか分らないし、またよねぞうには関心がない。

3部屋のうち、洋間に大きなダブルベッドを入れ、2つの和室のうち一室を自分専用にし、あとは納戸。 よねぞうの専用部屋はなく、ダイニングなどでうろうろしていて、と命令された。

高層住宅で、広く大きな窓からは眺望はよいが、前世と違い景色はほとんど灰色がかって色彩に乏しい。 部屋は全自動エヤコン完備で、窓は勝手に開けられない。 外に出るのも出入口の扉だけだ。
家財を運び込んで落着いたのが、こちらに来て一ヵ月後。 京育ちセンス、女らしい落ちついた部屋のインテリアに仕上げた。 


いま よねぞうはぼんやり外を眺めている。 頭の中は死んでからの夢にような一ヵ月を反芻している。 おせいさんは所用が有るとかで外出中。 出て行くまえ「独りで出ていかないで」と優しく言いおいて出て行った。


三途の川を渡る3日目最後の日、賽の河原で見た光景が、よねぞうの胸をいまも締め付けている。 船内放送が「賽の河原に近づいた」と告げて暫くし、全体が靄のかかり、茫漠とした輪郭に乏しい中州が見える。 しかし一ケ所だけ、よねぞうにははっきりみえた。

2~8才ぐらいの子が6~7人、素裸のまま河原で、赤い色の棒高飛びの、棒ほどの重そうな塔? を2人が支え、その根元に大きな子がせっせと石を運び、小さな子がそれを固定するよう、みんな懸命にその作業にはげんでいた。

どうやら自分と因果関係のある者だけが、ハッキリ見えるようだ。 一緒にのぞいているおせいさんには、靄のかかった影法師にしか見えない と云った。

あれがエンマ様に指摘され 「よく見ておけ」 と叱咤された光景なのか!
 
 経文に「十より内の幼子が賽の河原に塔を積み、一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため、日の暮れあいの淋しさに、地獄の鬼が現れて、積んだる塔を突き崩し、また積め積めと急きたてる・・」
悔悟の念がいまも薄まることが無い。 こみあげる感情を押し隠せない。

こんなよねぞう 思考は暫くして、おせいさんに移る。

二人は川を渡る船の中で一緒になって以来、ずっと共にして来た。 あの女(ひと)は柔らかい京弁で優しく、いつもかゆい所に手の届くこころ配り。 

前世の夫は、こんな情愛が細やかなすばらしい妻を放って、若いとはいえ、他の女性と子まで成したとは・・それに自殺にまで追いやった。

 俺には分らない。 

よねぞうがイタく気に入っているのは、その気質もさることながら、のびやかな肢体である。 形のよい大きく豊かな乳房、白磁のようなきめの細かい肌、それでいてよく引き締まり、弾むような弾力をもっている。 そり返り流れるような腰によく実った臀、おれは果報者だ。

いっとき船の中で、おせいさんは、自分のことを「執念深い性分だ 前夫をこのままにしておかない 必ず化けて出てやる 阿修羅道は自分に合っている」と打ち明けられたときの驚きと、凄惨なおせいさんの顔は忘れないが、その後のつき合いで随分薄められ、今ではあの時、どうして女夜叉に見えたのだろうと思うくらい、纏綿(てんめん)とした情感を示してくれる人だ。 

とは言えおせいさんには、もう一つ合点のいかない不透明なもどかしさがある。 が、「まあええわ」 昔から深読みの出来ないよねぞうは満足している。 


にほんブログ村 小説ブログへ

ブログランキング

スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ougo.blog103.fc2.com/tb.php/18-96149d89
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。