應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死1・ピンコロ

 これは この世とあの世を行き来する時空の物語である。

   ピンコロ
 あのよねぞうが死んだ。
 いわゆる高年齢者が理想とするピンコロリ(ピンピン生きていてコロッと死ぬ)だ。

突然のことで本人も死んだことが、未だ分らないのではないだろうか? 
日ごろ風貌も若く見え精力的で「俺はトウねん取って40才台だ」と威張っていたが。 そのようなあっけない死にかたで、この世から消えた。

 現在生きている者から考えて、それは理想的な死にかたで目出たい。
と文章に書けばわずか数行で終るのだが・・・周りの関係者みんなもそう思っているはずだ。 しかし彼を知る者のなかには、
「本来なら彼は苦しんで苦しんで、ノタ打ち回って死んで当然、それがいとも簡単にサヨナラされると不公平ではないか、この世に神も仏もいないのか」
そう思う人も居るだろう。

ところが、幽冥境いとはそう簡単ではない。

特に、よねぞうのような日ごろ、愛著(あいじゃく)驕漫(きょうまん)煩悩(ぼんのう)嫉妬.怒り.軽薄.その他.人間の持つ諸悪を人一倍濃く持ち且つ、その因業を積み上げてきた者は簡単ではない。 
まず彼の死の直前から話そう。

夕食に酒一本缶ビール1本を、うこんをサカナに約2時間かけ飲み乍ら、側の女房ドノを横にテレビを見て、気にいらないと口を極めてののしり、いつもの様に世の警世家ぶって、ひんしゅくをかって寝たのが9時前だ。

その晩は冷たい氷雨上がりで、冷え込みのきつい深夜。 薄い二枚重ねのふとんに身を縮めていたが、ふと目を覚し半覚睡の状態で、いつものように下腹の尿意を確認した。 寝床から起きようか、もう少し我慢するかの葛藤でぐずぐずあがいていた。 頭からのにぶーい命令で、やっと手洗いに行くため起き上がった。
立上がったとき、胸に少し締め付けるような痛みが走り、心臓のあたりを手でさすり乍ら便所に立った。 薄い寝巻きを透して、刺すような冷気が足許から這い上るのを辛抱して放尿する。 歳をとるとなかなか最初のひと走りが出ない、といつも思いながら少しイキむ。 やっと終って寝床に戻った。

並んで隣に寝ている女房ドノの、いつも聞くオソロシイ高イビキが、今は止ってまるで死んでいるようだ。 が、かさ高に見えるから大丈夫だろうと苦笑し寝床にもぐり込み、暫くして眠りに入ろうとしたとき、再び胸に痛みが来た。
先程よりも強い。 波状的に猛烈な痛みが続く。 隣の女房ドノに合図どころか、胸を抱えてエビのように横になり、あっともうっとも言えず、そのまま息ができなくなって気を失った。 そして何分か後、硬直した全身が弛緩をはじめ、潮の引くようにしてよねぞうは死んだ。 
享年59才。


 40才台後半から血圧が高く、彼の母親も脳硬塞のあと、寝たきりの中風で死んだから、自分も死ぬなら循環器系、脳にまつわる病気で、周りにシブとく迷惑のかける死に方だと思っていたのが、あっけなく心臓マヒで死んだ。
 

夫が死んでいるのを、女房ドノが知ったのは朝になってからである。
目覚ましが鳴っても、それから約10分ぐずぐずし、7時前にやっと起き出すのが日課。 夫はいつもそれより2時間半まえに起きて、居間のテレビを付け新聞を読んでいるはずだ、と思って何も気にせず寝間を出た。
朝食をつくり終えて、やっと居間に灯がついていないのに気づき、次いで寝間を見た。 珍しく向うむきになって、まだ寝ている夫に向って声を掛ける。返事がない。 もう少しそのままにしておこうと引き戸を閉めた。
そのとき30才を超えて、まだ独身で居ついている三男の源三郎が二階から降りて来、「今日の新聞は?」と母親に聞く。
「今朝は珍しくお父さん まだ寝てるねン」
ふーんと言って外へ新聞を取りにいった。 新聞を持って玄関に入ったとき、母親が大声で、「お父さんッ・・」 を連発する異常な叫び声が聞こえたので大急ぎで寝間に駆け込んだ。
女房ドノと息子が、ようやくよねぞうの死を確かめたあと、手分けして縁者.親類一統に連絡し大騒ぎになっていった。


それから・・・
あっけなく死んだ本人自身、何がどうなっているのか分らぬままに、棺桶に入れられるハメになったのである。
当の本人、死んだという認識はあるが、いま一つしっかりした自覚がないまま、ふわふわと空中をただよっているような気持ちで落着かない。 五体は棺桶の中だ。
生前、新聞やテレビで悲惨な事故.事件などで、最愛の人を失った肉親や身内関係者を、ニュースキャスターなどがお涙頂戴の場面に仕立て、思い入れヨロシク、必ずといってよいほど「天国でやすらかに・・」と云うのを、
「戦後いつから日本国が耶蘇教(ヤソ教)に宗旨変えしたんじゃ、仏教には天国ってあるかいな、極楽.地獄じゃ、バ−カ」
 そう云っていつも毒づいていたが、さて、これからオレはどこへ行くのか?

こちら 此岸(しがん)では突然のこととて右往左往。
まアしかし世の中よくしたもので、葬儀屋に頼めばカユイどころか、カユクないところまで手の届く時代。 その日のうちに医者の死亡診断書(大変興味があったので病名を覗くと『心不全.不整脈源性右室心筋症』といかめしい)も揃い、つつがなく最初の通夜を迎えた。 
長男一家がミチノク青森という、大阪から見て辺境のさい果て 蝦夷地にいる為、一日かかって到着するのを待ち、本葬を翌々日とした。 つまり通夜を二晩されることになったのである。
その為、真冬にも拘わらず棺にドライアイスを敷き詰め、ご丁寧にその上にアイスノンを敷いて寝かされている。長男一家のお陰で残酷極まりない扱いだ。

つづく

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