應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死18〔第三章〕・せいの謀りごと1

せいの謀りごと1

いま、夫のよねぞうを一緒になって初めて独りで外出させ、自分の部屋で頬杖をついて考えている。

前世の月山勢 結婚前の旧姓.役所勢(離婚に同意しないで死んだが、親が同意して届けたからたぶん旧姓に戻ったか?) いまはそんな事はどうでもいい。この阿修羅に来て今の男と結婚し、ほぼ半年が経つ。
 そろそろ前世で計画したことを、実行に移す刻が来たようだ。

旧姓.役所勢の遠祖は、なんとあの超有名な 役小角(えんのおずぬ.別名 役行者)である。

<解説・・奈良時代の山岳仏教徒.修験道の祖.大和の国.葛城郡の生れ・仏教と呪術を善くし、吉野金峰山.大峰などを開いて苦行、文武天皇の時.大宝元年 巉(そ)によって一時伊豆に流された> 
せいは長女でその下に2人の弟がいた。 
姉弟は物心つく頃から『我が家は役小角の子孫で、その証拠に姓の頭に役がついている』ことを両親から何度も聞かされて育った。
せいが夫と不仲で実家に戻り、恨みでうめくような、やり切れない日々身を灼いていた。 悔しくてこの恨みを晴すためには、死んで化けて出られるなら、いっそ自殺して祈り殺したい、と怨念に凝り固まっていた。
両親は、せいが小さな頃から、頭はよいが何ごとにも粘り強く、執着心の強い性格を知っていたから、婚家から帰って来て、毎日仏間に籠っているのを心配しながらも、静かに見守っているだけであった。
せいは先祖の位牌に来る日も来る日も祈り続けた。 あの男に私の憤怨と汚辱と呪いを与えたまえ と。


そしてある晩、とうとうせいの枕辺に、あの役小角が現れたのである。 
「私はおまえの先祖である・・」と前置きして。 女の執念岩をも通すか。

「私は修験道山岳仏教の開祖で、特に時空を超えて遊泳する呪術に長けておる。
昔からのおまえの性格、おまえがこの家に帰って後、身を捨ててもとの祈念、今の執念から推して、向後、いか様に行い修行しても、成仏(煩悩を解脱して仏果を得る)はとても無理だ。 それでも前夫に怨みをはらしたければ、一つだけ方法がある。 始祖の私から云うのは真に忍び難いが、それは、おまえがこれ以上生きて、引かれ者の執着で羞恥を世間にさらすよりまだましだ。
せい 自栽(自殺)せよ。 死して怨念を開扉すれば、10倍の果が相手に起る」

「一つ、まず自栽(自殺)せよ そして臓器提供をするのだ。
昔から日本人は仏教の影響からか、五体満足で黄泉へ下る思想があり、脳死後も身体の一部、それも大切な五臓を切り取られると、あの世で満足に旅が出来ないような心層が働き、臓器提供者が極端に少ない。 それに比べて欧米では、霊魂は死と共に肉体から離れ、不滅という思想が支配しておる。 その結果臓器の提供が多く、止むなく日本の障害者が高額の金をつくって、海外に臓器移植を求めて渡航している現状だ。 
ところが本当は、死後どの部位をとられようが、今迄と全く同じ営みが出来るのじゃ。 その証しに、戦さで首を斬られた者は、首無し人間になっているわけでない、ちゃんと首を付けたままじゃ。 黄泉(よみ)へ行っても不都合はない」

「二つ、 提供しておけば、された者の臓器の状態を診るため、半年に一回程度、時空を超えて往き帰する権利が付与される」
「幾つか条件がある。 死んだものは本籍が黄泉の国だ。 戻ったとき、前世の未練を断ち切れず、そのまま居着かれては困る。 そこで冥土で結婚して家庭を持つのが必須条件だ。 但し、決して形式的な見せかけ夫婦であってはならん、琴しつ相和し、夫婦の営みも最低週4回以上でなければならん。 忘れるな、仏はどんな些細な事柄も見透しじゃ。
これが守れるなら、始祖のこの小角が責任をもって、わしの得意わざの時空遊泳で往復させてやろう。 幸いおまえの弟たちが子孫を残してくれておる。 おまえが死んでもわしの子孫が絶えることは無い。 心おきなく自栽して目的を遂げよ!」
 
聞いたせいは喜んだのなんの、参拝九拝してご先祖さまに礼を云った。 

消えて行こうとする霊に向って、せいは先程から持っていた疑問を聞いた。

「なに? 女人禁制の修験者であるこのわしに、なぜ子孫が出来たかって? 
後世誤り伝えられ、誤解があるようじゃからこの際恥じを忍んで申しておく」。


「おまえ 久米寺の開祖である久米の仙人の言い伝えは知っておろう。 吉野龍門山に籠り仙人となった男。 ある日 空中遊泳中、おなごが吉野川でしゃがんで赤いふたの(腰巻き)をたくし上げ洗い物をしていた。 その白いマタに見愡れ、神通力を無くし空から墜落した・・世に有名な噺。 これは今昔物語や徒然草にも載っておる。 実を云うと本当はあれはワシだったんじゃ。 弟子の久米が身替わりとなって山岳仏教開祖の私を庇ってくれたのじゃ。 どのような苦行修験者でも、女の色香に迷うという故事、 そのおなごとの子孫がおまえじゃ・・大切な女の秘所を見られた 一緒になってくれぬと死ぬといって、しつこくオドされてのオ そのおなごの血を引いている執念深いおまえの事じゃ、わしのような失敗はするな そして次の男にはぬかるなよ!」


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