應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死24〔第四章〕・移植患者めぐり1

移植患者めぐり1

最初遠い所からと、腎臓を提供した25才の女性の勤め先、福島県.郡山市に飛ぶ。 地球時間で約1時間だ。 今度は相当高い所を飛ぶからと、おせいさんは急いで私を自分の胴に跨がらせ、下を見せるのを許した。
大平洋.遠州灘の海を右に、反対側に夏の富士山を見て飛ぶとき、鷹丸一家が1年前まで住んでいた静岡市を下に見て、今は遠いみちのくで暮している彼らを想って、いい知れぬ感慨が込み上げてきた。
 
郡山市に着いて、すぐ受供者の勤め先の会社を尋ねた。 全国的に有名な食品加工会社の事務をしているという。
駅前の目抜き通りの一角、瀟洒な新しい7階建ての本社ビル。 おせいさんは 時間はあまりかからないから「この入口で待っていて」 と云う。
目の前の「駅の待合い室で待っている」と云うと「迷い子になってはいけないからここで」という。 子供じゃあるまいし・・呟いた声が聞こえたのか、   「大勢の人が出入りする駅などで、あなたはきれいな女の人を見ると、ふらふらと一緒に何処かへ行くかも知れないでしょ、ここに居て!」と命令調。 
おせいさんと一緒になった時の前科があるから、いまいましいが黙って従うしかない。
側にある歩道のゴミ箱を見ると、捨てた新聞が目についた。
拾って読むとまだイラクへ米軍が駐留しているし、日本の自衛隊も派遣され復興支援中と出ている。 世の中、半年前とあまり変りがないようだ。
読み終わった頃、おせいさんが明るい顔をして出て来た。
「いま該当の女性に会って来た  毎月予後の検査も受けて 治療薬もきちっと飲んで大変調子がいい このまま治れば来春結婚できるようだ きれいな女性で幸せそうな顔をしていた」と、うれしそうに云う。
「そんなこと、その女性と話もせんで なんで分ったんか?」
当然という顔で、テレパシ-で全部分るんだ と云う。 まあ おせいさんは、超能力者で常人ではないからな・・・と納得するしかない。
 
午後3時半を回っているが、夏の事とて陽が高く暑い。 これから東京へ行って次の受供者に会って、今夜はそのまま泊まるという。
再びおせいさんの胴に跨がろうとすると今度は「東京は人が多いから、背中合せになって空を見ているのよ」と注意された。 云われた通りにする。
約半時間ほどのフライトで、東京.渋谷の明治神宮横の芝生に降り立った。
この東京在住の30才の女性も、片方の腎臓移植を受けて、社会復帰ができ、いま会社に勤めている。 と記録にある。
もう退社時刻だし、それに病気上がりの人だからたぶん帰宅しているはず、と見当をつけた。 だから今度はその会社に行かず、マンションの自宅に、直接訪問すると云う。 
自宅はNHKから渋谷駅に向って少し下がった途中にある。 
夕方6時まえ、その5階建ての高級マンションの4階におせいさんは入って行った。
よねぞうには久しぶりの東京、この街はいつでもどこでも人でいっぱいだ。 近くに山の手教会が目についたので、その石段に坐り待つことにする。 
よく晴れて茜色に染まった空を見て、最近東京の空はけっこうキレイになったと思って眺める。 人の群れがひっきりなく黙々と行き交う。 無気味だ。
暫くして、おせいさんが人並みをかき分けるようにして、よねぞうの前に現れた。 郡山市の時と違って不機嫌な表情である。
どうだった? と聞くと、「失礼なヤツ!」と吐き捨てるように云い 「早くホテルにいきましょ」 と私の手を乱暴に引っぱって歩きだした。 
いくら聞いても、
「ホテルでゆっくりしたとき話すわ、泊まりはホテルオ-クラよ」と云う。
オ-クラは都内でも、帝国ホテルと並んで最高級の格付で、むかし大倉財閥の総帥.喜八郎が創ったホテルだ。 たしか予約がいるが・・
えらい高級ホテルに泊まるんやなァ と云うと、おせいさんは事もなげに、 「あそこの朝食が好きだから・・」
どうも京都育ちは、よねぞうと価値観が相当ちがうようだ。
そのくせ、ケチってラッシュで猛烈に混雑する、地下鉄銀座線に乗ると云う。ところが込み合う車内を避け、ちゃっかりと運転席に乗り、虎の門で降りる。 ホテルに続く坂道を上りながら、おせいさんは、
「これからあたしが念力で、二人とも生前の姿に戻すから、それを十分意識して行動してちょうだい 分った?」
そんな事も出来るのか、と大変驚いたが、始祖.役行者があみ出した自在の術を駆使するおせいさんに、改めて畏敬の念を持つ。
放送局を通り過ぎ、人通りが途絶えた途端、二人は生前の姿に戻った。
服装も私はサラリ-マン風の夏の背広姿、おせいさんは白いノ-スリ-ブのワンピ-スに高級ブランドバッグ、軽やかな姿に変っている。
自由自在やなァ よねぞうはイタク感激する。
ホテル正面の車寄せまで来たとき、おせいさんは「ちょっと待ってて」と云い、道を隔てて建つアメリカ大使館へ堂々と入って行ったが、10分ほどして戻って来た。手に大使館員のサインをした紙切れを持って。 もう何も聞かない。
このホテルはリザ-ブがなければ一現の客は泊れないはずが、おせいさんの出した紙切れで、受付は何の支障もなくエントリ-が出来た。

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