應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

よねぞうの死27〔第四章〕・移植患者めぐり4

移植患者めぐり4

おせいさんとセンタ-1階の、広い待合室で落ち合った。
話を聞くと、手術は順調であったが、一時抗体反応が強く出て心配された。それも数カ月前に治り、先月からリハビリに入っているまでに回復したと云う。
この女性も、一見しておせいさんが気に入ったようだ。 しきりに、
「こんな子は元気になって長生きして、世の中のために働いて欲しいし、してくれるはずだ」とほめた。 これでおせいさんが提供した、臓器移植患者は全て診て回ったことになる。
「ところで お家のほうは?」 
少し釣り上がったような目をする。 留守だった と云うと、疑わしい眼をしたが 「これから私の家へ行きましょう」 と云って病院を後にした。
 
  おせいさんの実家
上賀茂に300坪以上もある、落着いた枯山水造りの庭を持つおせいさんの実家。 おせいさんが使っていた、渡り廊下でつながった離れの部屋は、生前そのままに置かれている。 二人はそこへ旅装を解いた。 
私は夕食時、おせいさんのご両親を蔭ながら拝見する。 
お父さんは60才を少し超したか、落着いた穏やかな風貌。 おせいさんによく似たお母さんは、頭に少し白いものが混じり、背筋を伸し、立居振るまいに気品がある。 さすが、と感心する。 二人はいま物静かに夕食を終え、茶を喫している。
その両親を、じっと眺めているおせいさんの白い頬に、筋をつけて涙が伝い落ちる。 その横顔を眺めながら、親よりも早く逝ったおせいさんの心情と、ご両親の静かな姿の底を汲み、よねぞうも痛切な気持になっている。

おせいさんは、さすが今日疲れたのか横になるや、すぐ寝入ったようだ。
俺も眠るか と目を閉じたが、戻ってきた前世の慌ただしかった数日の事柄に興奮してか、なかなか寝つかれない。 それでも半時間のちには、寝息に変っていた。
せいは寝入ったふりをしていたが、夫が眠るのを待って床を抜け出した。
仏間に入るや頭を下げ、小さな声で経を上げ始める。 約一時間ほど経ったころ、ぼう-とした人型の光る輪郭を持った、役の小角爺さんが現れた。

「おせい しばらくじゃ・・」
せいはその像に向って、三拝九拝して礼を云った。 爺さんは満足げに、
「あの世はこのわたしが云うたとおりであったであろう。 うん ところであの世で結婚したあの男は、お前が選んだにしてはまァまァじゃな。 限られた時間の範囲では仕方なかろう。 
云うて聞かすが、しかしあの男は意志薄弱で移り気、気が小さくて度胸がない。 おまえのような執着したねばりが無く、諦めが早い。 そのくせ、うぬぼれと小欲が人一倍強い。 それから、あまり色気づかさないよう気をつけよ。これも人一倍好き者で、女の色香に迷いやすく、人のおだてに乗り、無目的にどこまでもふらふら付いて行く。 まるでお前が彼を手に入れたようにじゃ。だから再び同じことが別のおなごに対し、起きるやもしれん。
この男は、まあこの世の戒めが、すべて当てはまるような男だ。 ただお前の意のままになる男ではあるが! 心せよ、せい。 
なに みな分っておる? そうか 判っておるならエエわ。 それと呪詛と荒淫もほどほどにしておけ。あまりしつこいと、逆現象が生じる怖れがあるぞ。
(それはどういう様なことですか?)
「せい おまえが胸に手を当てて考えることじゃ」
 言い終わって、風が揺らぐように消えた。

にほんブログ村 小説ブログへ

ブログランキング
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。