應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死39〔第六章〕・水難4

水難4


 後ろから不意打ちをくらった老夫婦は前のめりに押され、川中の孫は仰向けに押し倒され、瞬時に見えなくなった。

今までの清流があっという間に真っ黒い泥水に変り、氷のように冷たく渦を巻き、音を立てて周りのものを押し流していく。 それでも太一郎はすばやく起き上がり、うつ伏せに倒れた妻の手を強く引き立上がらせ、中州の高みに移るよう命じた。
増水の嵩はたいしたことはないが激流だ。

 しっかり立っておれッ 

と妻に言いおいて、目の前から居なくなった孫の鋭一を血眼で探す。
30メ-トルほど下流をチラッと白いものが見えた。 鋭一のパンツと直感した太一郎は黒い濁流に飛び込んだ。 

ものすごい勢いで下流に流されながらも、少し泳いだ所で流れに逆らって立って見る。 胸元までの水嵩、目の前に泥水は渦を巻き氷のように冷たい。

宇治川と違って支流の山科川は、川幅の狭いぶんだけ浅深の差が大きい。 狂ったように太一郎は再び下流を目指す。 そのとき脚が砂地に着いた。 立上がる。 ここは膝までの深さだ。 下流に目をこらす。 すると20メ-トルほど下にまた白いものがチラと見え、小さなシブキの上がるのが見えた。

太一郎は大声をあげ突進する。 再び川底が深くなったところで、やっと鋭一に追い付いた。 手を伸して孫の躯を引き寄せる。
とたん鋭一は無意識に必死に祖父の体にしがみついた。 一瞬太一郎は自分の衣服のまといつきと、孫の体の重みで川底に沈み込む。 あわてた太一郎はその時大量の泥水を呑み込んだ。
やっと孫を抱き浮き上がったが、今度は両腕を祖父の首に、渾身の力でしがみつき救助者の体の自由を奪う。 太一郎は何回も大きく泥水を呑む。
それでも少しづつ岸辺に近づき、護岸ブロックの切れ目に辿り着いたときは、力の尽きる寸前であった。 

 鋭一も大量の水を呑んでいたが、川の中で祖父にしがみついたとき、強く抱き込まれ、そのため腹部を圧迫し、幸いその拍子に泥水をほとんど吐き出していた。

妻の華子は中州の小高い草むらの大石に乗り、無事であった。

岸辺にいた人々が、三人の危難を見てすぐ救護所に連絡してくれ、病院に運ばれた。


  祖父と孫が救急病院へ運ばれ、泥水を呑んだ胃の洗滌措置を受けた。
孫の鋭一は様子見のためそのまま入院したが、太一郎は水の事故を引き起こし、病院に担ぎこまれたことを老人らしい失態と、世間体を気にしその日の内に自宅へ帰った。 ところがその晩遅く高熱を発し、あわてて近くのかかりつけの医者に来診を乞い、解熱の処置を受けた。



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