應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死55〔第七章〕・苦脳3

苦脳3

誠一はいま、息子の通う小学校の校庭で、鋭一の授業の終るのをある緊張感を持って辛抱強く待っている。 
風のない真夏の午後の陽射し、躯中から汗をしたたらしている。 
しかし心の中は、外気と反対に冷風が吹き抜ける。

半年まえに比べ、この変りようは何だ?どうしてだ? 

今年初めに東京で会ったK興業の北島の言葉がずっと苦しめている。

「もう何もかも失った!」

 と、ここ数カ月、絶望と悔恨にさいなまれ続けていた。 どこから俺の人生が狂ったんだろうと、繰り返し自問する。

他人から見れば、父母は病んでいる以外は妻や最愛の息子が居り、住む家も結構な邸だ。
 
 一般人なら『最近少しダ-ティなことでマスコミを賑わせているが、そんなの大したことではないか、そのうち人の噂も75日で忘れられる』今まで少し調子に乗ってはしゃぎすぎ、なぜそんなに気にするの?

ところが誠一は幼少の頃から、つい数カ月まえまで挫折知らずの人生であった。 
小さい時から性格明朗で活発、頭脳も良く高校.大学とトップを走りつづけた。 
学生の頃から、社会に出て司法関係の仕事を希望目指したが、恩師(最初の結婚の仲人)から学術を極めるよう奨められ、そのまま研究室に残り学究生活(その間に司法試験も取得し、役所せいと結婚)に入った。 
世の中、複雑系となって来た現在の風潮にうまく乗り、やたら多くなった政府などの諮問や審議委員会.研究会等、公的私的を問わず名を列ねた。 またマスコミの番組には、明るいキャラに明敏な頭脳と説得力.明確で平易な表現が人気を呼び、一躍寵児となって、電波に乗らない日がないほどの売れっ子少壮学者となった。

40才を越えた今まで、およそ挫折を味わったことがない幸運な男であり、本人も十分それを享受していた。 

ただ一つだけ不満があった。 

それは妻との間に子ができなかったことだ。 

誠一はその事で、夫婦の間が剣呑になることは、極めて慎重に避けた。 
それは6年に及ぶ、教え子との不倫と、出来た子供を隠すため、妻のせいに悟られてはならず、おくびにも気取られまいとした。

彼がどこまでもついていたのは、せいが隠し子のあるのを知ってからは、その妻の方から離婚の申し立てと、唐突に自殺したのだ。 
しかもせいの親が、表面上は世間体をつくろう為、病死として処理したことだ。 お陰で誠一にはほとんど傷つくこと無く、それにたま子母子が、晴れて誠一の家族になった。 

誠一はこんな幸運児だった。

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