應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死63〔第八章〕・語らい

語らい


 薄暗い森の中に入る。
 
木もれ陽の当る、落ち葉の積った小道を抜けると再び陽光が降り注ぐ広場に出る。
そこには散策している人々、それに談笑する声が賑やかだ。 

 広場の中にも小川が流れ、その手前に数本の繁った樹の下に休憩用のベンチが二つ。 その一つに腰掛けた女性らしい後姿が見える。 
よねぞうは晴々した気分で芝生を歩き、そのベンチに近寄った。 草を踏むかすかな足音を感じたのか、ベンチの女性が首を回してよねぞうを見た。

40才前後の彫りの深い欧米人だ。 美人だ。

ベンチの前に立ったよねぞうは、とびっきり愛想のよい笑顔を向けて、
「・・モ-ニン・・」
これに美人は、微笑みながら「こんにちは」と、はっきり日本語で返した。

「日本語だいじょうぶですか?」 

「ほとんど判ります」

 流暢な日本語が返ってきた。

よねぞうは生前仕事がら、欧米に何度も研修やビジネスに往ったにも係わらず、外国語はほとんど話せない。 この女性、日本語が判ると聞いて安心する。
なんとなくこの女性のかもす雰囲気は、よねぞうに安心感を与える。
隣に坐っていいか と聞くと「どうぞ」と笑顔で答え少し腰をひいた。
縦に細い、黒のストライプの入った白のワンピ-スに、黒の巾の広いバンドが清潔感を与える。 

隣に腰を下ろしたよねぞうは目を細め、両の指をからませて腕を伸し、思いっきり背を反らす。(今おせいさんは居ないのだ。 自由だ)。

それを見て女性は微笑みながら、 いいお天気ですね と云う。 それからとりとめの無い話を交わし、次第に暖かい打ち解けた気分になっていった。

「日本語が堪能だが、日本で長く住んでおられたの?」

 と聞くと、長く濃いまつげを細め、

「わたしはマリ-といい、生前日本に居て、昨年まで東京のある病院で看護師をしていました」

女性のほうから先に名乗らせてしまった。

「失礼、わたしは日本から来た よねぞうという者ですが、あなたは何年まえ東京に来られた?」 

6年前といい、独りで日本に? の問いに、そうだ と答える。 
続いて お国は何処? 東洋のこの日本に何故? の問いに、女性は正面の小川のせせらぎに眼を向けたまま、憂いの横顔を見せて黙ってしまった。 なにか人に話せない、深い訳がありそうだ。
よねぞうは矢つぎ早の問いかけを恥じて、見ず知らずの人にいろいろ問いかけ申し訳ない、と謝った。

マリ-という女性は、よねぞうに顔を向け、寂しそうな顔でうなずく。

気分を変えるように、今日初めてこの公園に来たがこんな素晴らしい処があるのは知らなかった と云えばマリ-は、私はこの阿修羅に来てすぐここを知り それからはほとんど毎日ここにやって来ている と云う。
厚かましいと思ったが、そこはよねぞう、

「それではここに来れば、いつでも貴女に会えますね」

「ええ わたしでよかったらどうぞ」

明るい笑顔で答えてくれる。 よねぞうは心の中でいたく悦んだ。

毎日灰色の世界、それに加えて最近、とみにモノを云わなくなった陰気なおせいさん、時々息のつまるような時がある。 少しでも、離れていられる時間ができればハッピ-だ。 
つい最近までそのおせいさんから、ひっついて離れたくなかったよねぞう。 おれも変った!?

ところが気の小さいよねぞう、ここでハタと心配性が頭をもたげる。
あの千里眼のおせい、よねぞうの一挙手一頭足どころか、心の中まで透視する術を心得ている人が果して、今日の一刻、他の女性との語らいでも知ったらどんなバツを受けるか、時々見せるあの夜叉顔が頭に浮かんだ。

しかしまた、こんな異国の美人を前に、妻のせいを恐れてなるか、と心では震えながら覚悟を決め、次に会う約束を交してベンチを離れた。

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