應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死67〔第八章〕・マリ-の過去2

マリ-の過去2


一方せいは、今日よねぞうの帰りが、いつになく遅いのを気にかけていらついていた。 いままでは遅くとも4時ごろには帰っていたのが、今日は午後5時を過ぎても帰らない。 何かあったか疑心暗疑がつのる。

ようやく6時前ドアの開閉がした時、せいはほっとすると共に、怒りがこみ上げてきた。

居間に入って外出着を脱ぐ夫に向って、遅かったわね と声に非難の響きを乗せてなじる。 ところがよねぞうは晴々と、憑き物が落ちたような声音で、

「遅い?そうかな 少しぐらいエエやないか」

まるで気にしていない。 

せいは、いつもと少し違うよねぞうの態度に違和感を感じたが、外でなにかあったのか?と聞いた。 
べつにィ と否定し、そしらぬ顔で湯殿のほうに行った。

翌日の朝、よねぞうは居間のソフア-で横になり、薄墨いろの外を眺めながら、昨日のマリ-の言葉や、夜のせいとの会話を反芻している。
昨夜二人で夕食を終えたあと、せいがこの居間に坐り、改まってよねぞうを問いつめた。

「まえにわたしが聞いた時、公園に行かなかったとウソを云ったでしょ・・」から始まり、公園の中の景色や設備機能.たたずまいから今まで、誰に会ってどんな話しをしたのか、微細で執拗に問いただす。 せいが常人でなく透視力や念力で、察知できる能力のあるのに、分らないのか?

最初よねぞうは、当り障りなく返事をしていたが、、俺はなにも隠すような秘密を持っている訳でなし、と少し腹が立ってきた。

それどころか、先程マリ-の数奇な来し方を聞き、この世界に来て、これほど感動を受けたのは初めてだ。

これに比べ、いま目の前で俺を問いつめている妻、これと比較してマリ-のなんと純粋無垢な夫への愛情か、と改めて感心する。 よねぞうはだんだん腹が立って来て、スペイン女性マリ-と会っていた事を告げた。

 外国女性と聞いただけで、せいは柳眉を逆立てる。

そこで公園で聞いて、感動と同情心を揺すぶられた、その覚めやらぬ気持をせいにぶつけた。

マリ-の生まれ育った特殊なバスク地方、その置かれた波瀾の半生と、悲劇的な事故死、またいつか、この阿修羅の世界にやってくるだろう愛する夫を、これから待ち続けるらしい・・と。 噛んで含めるように感動を込めて語った。

すると黙って聞いていた妻、嫉妬.猜疑.執念深いあのせいが、なんと目いっぱい泪をため、うつむいたではないか。

この夏、浮世に帰る前のせいなら、このような人間味の情感を見せることは、たぶん無かったろうにと思い、逆に戸惑うよねぞうであった。


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