應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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よねぞうの死69〔第八章〕・呼び出し2

呼び出し2


出頭命令が着いてから8日が経ち、やっとよねぞうは六道選別の閻魔庁に行くため自宅を出た。 

命令書が届いてすぐ、よねぞうはせいに同道を頼んだが、なぜかせいは頑なに一緒に行かないと云う。 だからなんとなく頼りない独り旅だ。

せいはよねぞうとの結末を予測していた。 たぶん別の世界に行くことを・・。
 そして夫がこの修羅道に引き返して来なくても、素直にうけいれようと。
だから自分の推理を一言も漏らさず、思い残すことのない一週間にしたかった。

人間界に帰った過ぎし夏の日、垣間見た吉田たま子の言動がなければ、執念深いせいは、今でも決してよねぞうを離さなかっただろう。

あれからせいに、日々大きな心の変化をもたらしたらしい。 自分でも不思議なほど清澄な気持で、事物を判断するようになって来ている。

自分は自栽までして復讐を誓った。 しかし考えてみれば、最初人間界に戻って復讐のワナを仕掛けたのは、何の事はない、皮肉にも自分の心を裏返しにしてしまった。

 いかに悪意.凶の心をもってしても敵まで愛してしまう、たま子のようなとほうもない愛、仏の慈悲の心で包み込まれると、このような気持ちにさせてしまうのか! 故意に自分の心を偽ってはいけない。 人の性は善だ。

ここ2ヵ月ほどで、今までの執念.嫉妬.煩悩.瞋恚(しんい)など、まだ少し心に残滓はあるが、日が経つにつれ薄れて行くのが分る。
 
そしてよねぞうに対する、今までの愛が透明.純粋な愛といえただろうか? よねぞうを解放してやろう。 また二人が会う事を運命ずけられておれば、そのときは本当の純愛で応えよう。

この一週間、家の中に二人で閉じこもり、濃密な時間を過ごし、別れの儀式が済んだ。 
未練がないと云えばウソになるが、これから独りで生きて行こう。

ドア-を出て行く、よねぞうの後ろ姿を目に焼きつけて、

心の中で 「さようなら」 とつぶやいた。


よねぞうは阿修羅港から独りで、六道選別所行の船に乗った。 
一昨年の2月にこちらに来てから船に用は無く、乗る機会も無かった。 
せいと一緒に来た時は、豪華な特別室であったが、いまは二等船室で窓からかろうじて外が見える。 この等級の乗船客は数人で、静かな出港であった。

よねぞうは後部の窓際に腰を掛け、思いにふけっている。
この一週間 一緒に行こう、と幾ら云っても嫌だと云い、見送りに外にも出なかった。 今まで一緒に過ごしてきた年月、せいの性格から推して不思議としか言いようが無い。

エンマ庁からの呼び出しも不審だが、それを知ってからのせいの素振りは合点がいかない。 せめてこの港まで見送ってくれてもエエやないか! おかしい? 船は急流に乗って下って行く。


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