應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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酒の肴になる男(1)

              酒の肴になる男(1)

 男が現役のときもリタイアした後も、同じ釜のめしを食った連中と雑談したり一杯飲んで旧懐談するとき、当人がその場に居るいないに拘わらず、なにかな話題になる人物がいるものだ。
  
 Sさんのこと
もうずいぶん前のことである。
勤めていた職場にSさんが営業要員として中途入社してきた。年令36才、身長165cm位、中肉中背、目がやや奥にあり(彫の深い?)取り立てて男前とは言えないが、笑うと何とも親しみのこもった愛嬌のある表情となる。

 大阪の何代も続いた富裕な商家の三男に生まれ、昔風にいえば、ええしのコボンさんか、 関西のK大経済学部卒。
性温良、やさしく親切、人がやりたがらない嫌なことでも、率先してやる男である。いつも陽気で淡白、酒は飲めないタイプ、ビ-ル小びん1本で真っ赤になる。 しかし皆と結構酒席を付き合っていた。 
そして酒は弱いがアレには強い、といつも威張っていた。
落語に出てくる若旦那そのものである。
ここまでは愛すべき男、Sさん。

ところがこの男、困ったことに何事もアバウトで、全てについて安請け合いする癖がある。 そして、飽きっぽく移り気で持続力がない。要するに最終責任を持たせられない男であった。過去6回も転職を繰り返している。
   
大学を出て最初関西系の総合商社へ入ったが2年で辞め以後、会計事務所.旅行会社.百貨店.ス-パ-の仕入部.レストランの副支配人等、長くて2年会計事務所などは3ヶ月で辞めている。それでも親の光か、結構良い職場の良いポストにつくが長続きしない。
支店長から「過去の職歴と退社事由などからして、あきっぽい性格のようだから、十分注意して指導するよう」指示が出ていたので、できるだけ帯同訪問したり訪問日誌のチエックとフォロ-をしていた。

営業の新規開拓班に回されたが、予想に反し本人は連日ヤル気をだし真面目に回っていた。3ヶ月目に中古車販売業(いまでは上場企業)またその紹介で自動車修理業2社と5ヶ月間に法人個人で20数件の新規先を獲得。 
そうなると本人も鼻息も荒く意欲的であるし、管理者としてもひとまず安心と。それでも目配りだけは十分していたが・・

ところが、そろそろ6ヶ月過ぎたころ取引先から苦情や不満.文句が出てきた。

何日に約束したのに来訪しないとか、当座決済の入金を取りに来ないとか。
しかし大変困ったのは、
「融資約束したのに実行してくれない」
得意先の死命を左右しかねぬのまで出る始末。本人と取引先双方の話を総合すると「はいはい判りました」 余り簡単な返事に、却って心配で再度念押しすると、
「お宅は私が責任を持つから大丈夫」と調子よく安請合いするらしい。
こんなトラブルが頻発しだした。これは困る、大変困るのだ。
上司同僚たちと相談の結果、営業員のまま車の運転専担がよかろう、と衆議一決。

今までは1台の車を分け乗りしていたが、彼に運転の専担者になってもらうと助かる。 時間をかけて説得するつもりだったが本人は別に不満でなく、 
「何でもやります」と、これまた意欲的、大助かり。 とにかく淡白である。 

当時、有料道路.高速道が少なく車の渋滞がひどい上、この店のテリトリ-が大変広く大阪東部一円(市内.守口.門真.寝屋川.枚方等)であった。 
幸い、彼は大阪生まれで土地カンがあり、裏道もよく知っていたので大変重宝した。
ところがある日、物件調査他でO君 「橋本へ」といったあと、連日の疲れから後部座席に潜り込んで、すぐ寝入ってしまった。

暫く経って目を覚した彼が、風景の違うのに気がついた。 

「ここどこや」

「まだ河内長野ですわ、ゆっくり寝てて下さい」

行き先は枚方の隣、京都の八幡市橋本を、和歌山県橋本と間違ったらしい。
それでも、
「せっかく来たんやから、このへんで遊んで帰りまへんか、夜ならエエとこ知ってまっせェ」
午前10時すぎにこんな調子である。
兎に角、早とちりが多かった。 

また、まだ阪奈道路が有料であった頃、奈良.学園前へ調査にいった帰り、彼は生駒の坂から未鋪装の脇道へ入り、雨が降れば谷川に変わるような山道を昇り下りする。
 
「なんでこんな路行くんや」
「まアまかせて下さい」 
 
 近道だと思った後部座席の二人は黙っていたが、結果 いつもの3倍ほどの時間をかけて、やっと降りてきた。 後部座席の二人は身体中バラバラになる思いであった。

大阪入口料金所の建物を左に見て、彼はほっとしたように、

「帰りの料金助かった」と言う。 

「ん?」

「いまの道を通ると料金いりまへんのや、覚えといたら役に立ちまっせェ」

「なに言うとる、奈良の入口で払うたやないか、出口では取るかいな アホ!」

「む? あっそうかア!」 


Sさんとはこんな男である。




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