應其

高野應其(たかのおうご)のエッセイと小説。

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酒の肴になる男(2)

 悪妻は三代の不作

 Sさん、三才下の妻と11才の娘、それに9才の男の子がいる。
奥さんはK女子大出の才媛でやや冷たい感じを与えるが、知的なすこぶる付きの美人である。共稼ぎで、S女子短大の家政学科の講師をしている。 
入社して1年ほど過ぎたある日、Sさん、左頬と首に幅広の引っ掻き傷をつけて出勤してきた。
早速、皆の好奇と期待の注目を引いた。  
その頃には、入社して日は浅いが店内でのSさんの印象(人は善いが金と女にだらしなく、且つ競馬.競輪.競艇.要するに賭けごとに目がない、そして極めつけの恐妻家等・・)のイメ-ジが定着していたので 特に女性らが喜んだ。
「何故だ」「何処で」「誰と」理由を私に聞けと言う。
「夫婦喧嘩は犬でも喰わん言うやろ、あほなこと聞けるか」
ところが当のSさん、飲めないのに私に「相談がある、今夜付き合ってくれ」との要請。 

「まあ聞いて下さい」

話を聞いておどろいた。 

以下、彼の話
「わしの嫁さん、アレ昔から淡白なんですわ、ところが、わしは反対に誰にも負けん位強いんですわ・・・」から始まった。
半年前、阪神競馬で大穴当てるつもりが大損し、友達に高い利息付の借金したが、嫁さんにバレて5万円立て替えて貰った。(今の価値で20万円程か)
 ところがこのヨメ、昔から夫婦でもゼニ金他人で、きつ-い取り立て。
ある日の夜、ヨメの上に乗りかかると突然1回につき500円出せと言う。

『あんた、私何も知らん思うとるやろけど、十三のアルサロの流れで1回3000円以上使うとるはずや、今まで只でさしとったけど、これからは1回につき500円貰う』

こないぬかすんですわ」 眼を赤くして悔し顔。

「しかも、『あんたは昔から調子ようOKするけど、約束ごと守ったためしゼロや、これからはするとき鉢巻しめて、そこへ500円札差し込んでやれ、終わったらすぐお札取れるから・・・』こないぬかしよるんですわ」

 「それで?」借金しとる手前、腹が立つけど承知した、しかも月5回は利息分だとのこと。

「おかしやないか、奥さんも共に楽しんどるんやろ、その分どんな計算になっとるんや?」 こちらも義憤に駆られて思わず声を荒げた。
「それが、うちのヨメはわしがシコシコやっとる最中でも、日経新聞広げて株式欄見とるんですわ」 
「ん?」
「この間なんか途中で、『まだやっとんの、ながいなァ、早う終わってえな』こないヌカすんですわ、気分乗りまへんで」 品のない、あからさまな話だがこれも相談事。
それでも、こんな状態がもう半年も続いているし、そして未だ借金は1/3も返していないとのこと。
笑ったのは、最初のころ、タオルの手拭いでハチ巻し500円札差し込んでやっていたが、部屋の間仕切りのガラスに写った己の格好の悪い姿見て、最近は子供の運動会の赤白ハチ巻に変えたとのこと。

「あんたの奥さん、去年の末、太閤園で催した会社の家族クリスマスパ-ティで見かけたが、えらい美人やったやないか、落ち着いて聡明な感じがして、そんな非常識なこと要求するんか?そんな人には見えんがなァ」
「夜、品のないこと言うヨメでも、死んだ父親は旧帝大の教授で、また母親がエラぶつなんですわ。ケン高うてわしをいつも陰で『町人風情が』と言うとるらしいんです。それだけやないんですわ、ワシの娘も最近受け継いで、母親そっくりになってきよって命令口調になり、
『お父さん、お母さんを労ってやらんとあかん、また、もっとしっかりして私ら大きいなるまで養ってや』 こんなこと言うようになりよって、ほんま昔から悪妻は三代の不作とはよう言うたもんや」とため息をつく。

「ところで引っ掻き傷はどうした」 ようやく本題に入った。
「ゆうべ、あいつ、久し振りに新聞見ずに途中でヨガリ声出しよるさかい、こっちも大いに気分乗って、改めて突撃に移りかけたとき にょうぼが、
『下から見てると、あんたの格好、ほんまおもしろいわ』言うてケラケラ笑いよった「アイツの下腹ゆれて力が入ったのか トタン、こちらのがすぽっと抜けてもて・・・ほんなら舌打ちしよりますんや、腹立ったさかい思わず横っ面張りっ倒したんですわ」
聞いたこちら、心の中で(やったァ)
ところが即、反撃に合い、それからは二人で下半身の闘いから、全身の戦いに移った結果、このような負傷となった始末、との話。
「わし、もう我慢の限界ですね、別れたろ思いますねけど、どないしたもんでしゃろ?」 世の中いろいろの夫婦が居るものだが、穏やかならぬ相談。
 それからは、男は度量、ならぬ堪忍するが堪忍、昔、戦時中の修身で習うたやないか、と「韓信の股くぐり」の故事まで出して、意見.訓戒.慰めを続けた。

「股くぐりねェ」 浮かぬ顔のSさん、初秋の夜が更けて行った。 

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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学

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